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大言小語 春遠からじ

 春は一歩ずつ近づいている。例年ならば厚手のコートから解放され、気分も弾む3月だが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の脅威がそれを阻む。特に体力や抵抗力が低下した高齢者は、感染すると重症化するリスクが高いという。老人ホームなどで働く人たちの緊張感はいかばかりだろうか。

 ▼グループリビングの理念を取り入れ、少人数の高齢者と母子家庭が一緒に暮らす住宅型有料老人ホームを見学した。全8室。建物は戸建て住宅を2棟連結させたもので、共有のリビングには7、8人が座れそうなダイニングテーブルが置かれている。庭に面した窓から暖かい日差しが入り、老人ホームというよりも大家族が暮らすごく普通の住まいのようだった。少人数だからこその憩いがあり、中規模以上の高齢者住宅ばかりを見てきた目には新鮮に映った。

 ▼住まいの安心、安全が言われるようになって久しい。しかし〝憩う〟という感覚は安心・安全とは別物のように思う。見学した老人ホームの運営者はこう語っていた。「入居者同士、気心が分かり助け合うので住みやすいと思います」。

 ▼増えている戸建て住宅の空き家を活用すれば、こうした小規模で若い世代と共に暮らすことができるアットホームな老人ホームを供給していくことができる。大規模化という効率主義でなく、新たな発想とそれを支援する制度を導入すれば超高齢社会にも暖かい春はやってくる。