政策

社説 16年地価公示 一部突出状況に注視を

 16年地価公示が発表され、全用途平均で、0.1%ながら8年ぶりに上昇に移行した。全体的な傾向は、ここ数年の流れをそのまま受ける形となり、住宅地では、わずかな下落ながらも、商業地では上昇に転換。特に地方中枢都市である、札幌市・仙台市・広島市・福岡市では、住宅地・商業地とも三大都市圏を上回る上昇となっている。リーマン・ショックの落ち込みから完全に脱しつつあると言え、地価の安定的回復が日本の経済成長を後押しできる状況だ。

 しかし、地域をこと細かに見ると、上昇一辺倒というわけではない。日本の地価をリードする首都圏でも同じことだ。特に、千葉県の八千代市、白井市、柏市から、春日部、川越、東京多摩、神奈川県横須賀市へと結んでいる国道16号線のエリアから、下落となっている。いわゆる郊外部で、建築費の高騰などからマンション販売状況も芳しくないエリアだ。この状況はここ数年続いており、アベノミクスの恩恵をストレートに受けた富裕層と、可処分所得がいつまで経っても増加しない中小企業に勤務するサラリーマン層との二極化を象徴しているものと言えよう(そして、更に年収400万円を切る層とのかい離が進んでいることも)。

 地価が上昇したバブル期も、東京の中心地が上昇したが、周辺地域も併せて上昇していた。それにより多くの人がバブル景気を享受し、そして失意へと向かってしまった。それに比べると、今回の地価上昇局面は、一部が突出した上昇であることがよく分かる。中部圏、近畿圏もごく一部のみが突出する。地方中枢都市の躍進は、まさに東北や九州などで、仙台と福岡が突出していることの表れだ。

 もはや二極化ではない、一部のみが潤う突出傾向は、当然に歪みをもたらす可能性が高い。幸い、建築費の上昇は資材の供給や工賃の平準化が進み、落ち着いた傾向にあるなど、極端な地価上昇から需要が減少する最悪の流れはまだ生まれることはない。一部の異常な高騰に周りが引っ張られるのには限界がある。国が進めているコンパクトシティ構想を更に迅速化させ、周辺地域の活性化を図る必要がある。また、今月景気判断が下方修正されたように、景気も心配だ。一般消費者が住宅を取得できるよう、経済施策を最優先させるべきだ。消費を冷却しかねない消費増税の引き上げ時期の再考、住宅に対する思い切った軽減税率などの施策も加えることで、地価上昇による受益分を一般国民が享受できる体制に転換すべきである。

 土地の価格はもちろん高低の波がある。しかし、公共財という重要な側面がある以上、政府には今後も地価を注視し、可能な限り安定化する政策を進めてほしい。