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大言小語 不思議な居酒屋

 来年は全ての団塊世代(約680万人)が65歳以上となる。彼らが後期高齢者(75歳以上)になっている25年には、高齢化率が30%にも達する。

 ▼3~4人に1人が高齢者、しかもその6割が75歳以上という状況は、日本社会をどう変えていくのだろうか。実は、その未来の設計者になり得るのも団塊世代の人たちである。ヤル気、行動力、情報発信力も備えた、かつてない高齢者軍団。後期高齢者になるまでの、この10年間には何らかの青写真を見せてくれるのではないか。

 ▼団塊世代が常連になっている居酒屋がある。シニア夫婦だけで経営する焼鳥屋だ。店は狭いが団体客は来ないので、たまに込んでいても詰めれば何とかなるのがいい。若者向けのチェーン店や、大型大衆酒場はやたらうるさく、心安らぐ場ではないと団塊世代は嘆く。焼鳥店のマスターは週に3、4回人工透析に通っている。頑張ってはいても、夜の9時を回ると疲労が目に見えて分かるので、客も10時頃までには引き上げる。

 ▼マスターが静かな分、その店では奥さんが明るく客と接する。主人が、じっとうつむいたままの姿勢になっても、そこには目を向けない。その横顔は凛として美しく、静かな決意が宿っているかのようだ。店がいつまで続くのか、それは誰にも分らない。ただ、団塊世代の客たちは、その店で飲んでいると、不思議に静かな闘志がわいてくるという。