政策

社説 建築費上昇で考えること 建設的な意見交換できる関係を

 マンションやビルなどの建築費の上昇が目立っている。これが今後の住宅・不動産市場にどのような影響を与えるのか、どう対応すべきなのかを考えてみたい。

 建築費上昇の要因としては、円安による建築資材の値上がりもあるが、それ以上に技術者・職人不足による人件費の上昇が大きいと言われる。1年ほど前からその兆候が出始め、ここへ来て一挙に表面化した。分譲マンションやビルの場合、1年前と比べ、「2割から3割程度高くなった」という声がディベロッパーから聞かれる。「中小ディベロッパーはやっていけない」という経営者もいるほどだ。

 用地代が上昇しているのに続き、比較的安定していた建築費が大きなコストアップ要因として重くのしかかっている。この10数年、勤労者世帯収入が減少する中での販売価格の上昇は、市況を一挙に冷やす契機になりかねない。

 わずか7年前、投資ブームによるミニバブルと言われた不動産活況期があった。それと前後してマンションは新価格、新々価格などと価格上昇が続いた。だが、一般需要者に手が届かない水準に達すると、市場は一挙に冷え込んだ。その後、米国サブプライムローン問題やリーマンショックで中堅マンションディベロッパーが相次いで倒産したことは記憶に新しい。

実需対応こそが使命

 歴史は繰り返す。需要者の購買力が上がってくればいいが、そうなる保証はない。住宅市場は、活発化してきた投資需要や富裕層向けだけで成り立っているわけではなく、圧倒的多数の一般勤労者世帯の需要が支えになっている。その実需に対応できる住宅商品を提供することこそが、事業者としての社会的使命である。分譲マンションはコストアップ要因が直接的に価格に反映されやすいが、その影響は賃貸住宅や戸建て、リフォーム事業などでも同じだ。いずれ賃料や改修費、パック料金などの形で跳ね返ってくる。

 その意味で、建築費上昇は、建設業界にとっても、需要の減退を招く由々しき問題である。新築から大規模改修やリフォームなどのストックの活用分野、都市インフラの点検・改修・更新、更に震災復興など喫緊の課題を担う建設業が、重要な基幹産業であることは言うまでもない。それを支える技術者・職人の確保は欠かせない。だからこそ技術を伝える人材が集まり、育つ業界に転換する必要があるだろう。

 建設業界と工事を発注する住宅・不動産業界は、相互に切り離せない関係にある。これまで建設業界には「請け負け」という言葉があった。両者は、その時々で勝った負けたという強弱の関係ではなく、将来を見越しながら建設的な意見が交換できる関係を築いてもらいたい。今回の建築費上昇がその契機になればと思う。