政策

社説 社会インフラの点検を急げ 成熟社会の足元を固めよう

 突っ走ってきた高度経済成長が終わり、バブル崩壊とそれに続く失われた20年。財政は疲弊し、国民生活も10数年続く所得ダウンで、豊かさを実感できないまま長引く不況にあえいでいる。世界有数の経済規模を誇り、債権大国であるにも関わらず。成長が減速しても、熟成した社会が実現できるはずだったが、それは幻想だったのか。最近の出来事は、そそうした思いを強くさせる。

 東日本大震災では、安全神話が崩れた。厳寒の2度目の冬を仮設住宅で迎えざるを得なかった人びと、原発事故で避難生活を余儀なくされる福島県の人たち。我が国が最も力を入れなければならない復興の歩みは遅く、原発事故の収束は見えない。加えて、国民の心を寒くさせているのが、都市基盤や社会インフラの老朽化である。

 12月2日に起きた中央自動車道笹子トンネル上り車線の天井板落下事故は9人の命を奪う大惨事となった。通りかかっただけで命を落としてしまう悲劇を繰り返してはならない、事故はそんな思いを新たにさせた。

 その後、同じ構造のトンネルから不具合個所が多数発見され、笹子トンネル下り車線では670個所も見つかった。これでは、いつ落下するか分からない。通行車両は常に危険にさらされ、命がけのゲームを強要されているようなものだ。原因は施設の老朽化、保守・点検体制の不備、更に構造的欠陥などが指摘されている。原因の究明を進めると共に、他の同様施設設備の点検、再発防止策の確立を急がなければならない。

首都高などは50年に

 我が国の高度経済成長を支えてきた道路、交通、港湾や上下水道、更に住宅、公共施設などの都市基盤を構成する社会インフラの老朽化が指摘されて久しい。64年の東京五輪に合わせてできた首都高速道などは間もなく敷設から50年を迎える。その橋梁には錆びも目立つ。95年の阪神大震災を機に補強されたとはいえ、予想される首都直下型大地震で大丈夫か、と心配になるほどのお寒い状況にある。

 東京都などの自治体では、震災時対応のため幹線道路沿いの耐震化を進めているが、まだ緒に付いたばかりで、役所庁舎や学校などの公共施設の耐震化もいまだにその途上にある。財政難が理由として挙げられがちだが、国民の命の安全と財産を守るのは政治の使命である。何を置いても、社会の基盤となる公共性公益性の高い施設、社会インフラの安全性を確保することである。

 それにはまず、施設の経年劣化の状況、設備装置の維持管理の状況をしっかり把握する必要がある。そして適切な整備、改修、取り替え、撤去、建て替えを行うしかない。社会基盤の安全性が備わったところに初めて、真に成熟した実りある社会が実現できるのではないか。誕生する新政権には、そうした足元を固める取り組みの推進を望みたい。