総合

大言小語 洒脱な業界人

 「忙中閑のときはお越しください」。東京・丸の内の日本工業倶楽部や日本橋の三越劇場。「常磐津利衛太夫」の名で常磐津を演じる枝村利一さんから届いた招待状の添え書きである。財界人らが長唄、清元などを披露する素人名人邦楽会。出演予定時間に赤枠を引いたプログラムを何度かもらった。伺うと、独特のよく通る、少し高い声が響く。その姿は達人の域であった。「楽屋をのぞかなければだめだよ」とも。

 ▼経営の第一線を退いてからも業界を担当したOB記者たちとの交流は絶やさなかった。年に2回、銀座のおでん屋での情報交換会も付き合った。当初から割り勘だが、枝村さんは必ず地酒を2本(4合瓶)ぶら下げてきて、「この酒はいける」と差し入れた。昔話から政治経済情勢、更に健康問題や共通の知人の消息など、話は尽きない。あえて聞き役に回ることもあった。

 ▼バブル崩壊直後。本紙連載コラム「随想広場」への執筆をお願いした。計10数回だったが、本業の不動産関係はもちろんだが、向島「三囲神社」や花柳界にまつわる話、また、当時流行った「日本をダメにした政治家○○人」を経済版に焼き直して、鋭く業界活性化策を提言したことも記憶に残る。人物の幅の広さと洒脱さを見せつけられた思いだった。5月24日、不動産流通経営協会懇親会でお会いしたのが最後になってしまった。