政策

社説 媒介業務の核心とは 報酬を手数料と呼ぶ違和感

 住宅流通市場における媒介業務の分業化が進んでいる。DX化でそれが加速する。物件への問い合わせ対応から案内のアポ取りまでテック企業に委託するケースや、住宅ローンの選択・相談に関しては専門会社に外注する会社が増えている。また、オンライン取引の普及と共に契約書の法律チェックをリーガルテックの導入で省力化する傾向も目立ってきた。

 ただ、そこに新たな課題が浮上する。媒介業務の核心部分はどこなのかという問題だ。AIに託された部分は言うまでもなく、DXによる作業は誰がやっても同じである。媒介業務担当者が人間として行う業務の真髄はどこなのか。 そもそも、動かない不動産が流通するということは、その不動産を利用する個人または法人が入れ替わるということだ。ということは、媒介者はそれを利用する者がその不動産に何を期待しているかについての深い理解を持たなければ本来の流通価値は生まれない。担当者に高度な専門能力はもちろん、豊かな知見・見識、更には人としての品位・品格が求められるのはそのためである。

 その第一歩が「聞く力」である。住宅であれば購入動機は何か、その時期(いつまでに)、資金は(自己資金の額、親からの援助はあるのか)、親との同居計画は、住宅ローンは夫婦それぞれかなど聞けることは何でも聞く。売り手に対しても同様である。売却動機は、売却代金の使途は、新たな住まいの確保はなど、聞きにくいことも含め、聞くべきことはなんでも聞くという姿勢こそ媒介担当者としての誠実さの表れである。

 というのも両当事者の真の事情が分かっていればいるほど不動産のプロとして適切なアドバイスができる。適切なアドバイスができなければ顧客の満足度は低い。つまり、担当者は〝おせっかい屋〟で、かつ信頼できる〝良き相談相手〟でなければならない。

 このように、顧客の人生やライフスタイルの実現に深く関わり、重い責任を持つ仕事がほかにあるだろうか。更に言えばその責任は売買契約の成立をもって果たしたとも言い難い。両当事者の売買動機や目的が現実にかなえられてこそ意味があるからだ。その確認のためには契約成立後も何らかの形で関わっていく必要がある。このように重い責任と誠実さが問われる媒介という仕事は個々のケースに応じて千差万別となる。にもかかわらず、その対価を報酬とは言わず、事務的費用を意味する〝手数料〟と呼ぶ違和感がぬぐえない。手数料は定額だが報酬は提供された役務に対する感謝の度合いによって決まる。ゆえに宅建業法でも手数料ではなく〝報酬〟としている。事前に受領する額が決まっていれば、あとは業務の効率化しか考えなくなるのではという消費者の邪推も生じやすい。分業化が進む今こそ、媒介報酬のあり方自体を見直す好機としたい。