社説「住宅新報の提言」

新政権への期待

中古と賃貸市場整備に新機軸
 民主党政権による新しい政治が幕を開いた。住宅・不動産市場に対してはどんな政策が打たれるのか、業界の関心が高まっている。
 マニフェストによれば、住宅分野については「住宅政策を転換して、多様化する国民の価値観にあった住宅の普及を促進する」とある。そのための具体的施策として挙がっている6つの項目の中で、まず注目されるのが「リフォームの最重点化」である。
 これは中古住宅の取引を活発化させるのが目的でバリアフリーや省エネ化、耐震補強などの改修工事費負担を軽減する。これまでの自民党政策と基本的な違いはないが、住宅ローン減税との連動強化や自己資金の場合でも対象とする考えを打ち出すなど本腰を入れる構えだ。内需拡大効果を従来の新規着工だけでなく既存住宅の長寿命化にも求める新機軸として期待したい。

インスペクター育成で住宅の資産価値維持
 関連する施策としては、中古住宅の価値を「正しく鑑定できるホームインスペクターの育成」が盛り込まれたことも特筆すべき点である。国民の資産の中心となっている既存住宅の価値を安定的に維持していくことは、高齢者の生活を支える手段としても重要なものとなる。
 一方、「多様な賃貸住宅を整備するため、家賃補助や所得控除などの支援制度を創設する」とあるように、賃貸市場にも力点を置く姿勢を明確にしている。これは大きな変化となる。55年続いた自民党政権は一貫して国民の持家取得を支援してきた。旧住宅金融公庫(現住宅金融支援機構)による公的低利融資と住宅ローン減税が2本柱となっていた。
 それに対し、民間賃貸住宅入居者に対する支援はほとんど実施されてこなかった。景気刺激のための持家取得促進政策が常態化していたといえるだろう。
 その結果、わが国の賃貸住宅の平均床面積はいまでも40m2台の水準にとどまっている。<所有>に偏重するのではなく、子育て世帯向けも含めた多様な賃貸住宅を整備していくことは、国民の平均所得が低下し続けている今日、喫緊の課題といえよう。

賃貸市場透明化へ
定期借家の出番か
 賃貸市場の整備・合理化を目的に制度化された「定期借家制度の普及促進」も盛り込まれた。
 近年訴訟が頻発化している原状回復や更新料などをめぐる問題を見ても、わが国の賃貸住宅市場が入居者にとって、透明で合理的な市場になっているとはとてもいえない。定期借家はそうした問題を一挙に解決できる可能性を秘めている。
 なぜなら、原状回復をめぐるトラブルの根底には、大半の物件が家賃の右肩下がりに対応した綿密な長期修繕計画を立てていない現実がある。
 長期修繕計画を立てるためには長期的収支計画がなければならないが、それを可能にするのが賃料増減請求権を排除できる定期借家権となる。 また、定期借家権は更新ではなく再契約型となるため、更新料問題は発生しない。
これらマニフェストの実現に対する高い期待と共に、今後は財源問題が大きな焦点となってくる。国債償還費だけで予算の4割を占める異常な財政状況は民主党政権になっても変わらない。「ムダづかいをやめる」ことは当然だが、削れる予算の額にはおのずと限界があるだろう。

行政コスト削減で財源確保は正しい
 ただそれでも、硬直化した官僚制度や行き過ぎた中央集権、県と市による重複自治の見直しなどで「行政コスト」を軽減することしか、今のところ国民の生活を豊かにする道筋が見えてこないことも事実である。
 衆院選挙後の会見で、改革への並々ならぬ決意と覚悟を示した鳩山由紀夫代表の政治手腕に期待したい。