総合

彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇125 媒介報酬自由化は必定 枠内での競争に変革なし 「手数料」表現も疑問

 媒介報酬の自由化はいずれやってくる。54年前に定めた媒介報酬の上限規制が今でも使われていることに時代錯誤の感がぬぐえない。

 今や東京では10億円以上もする新築マンションが飛ぶように売れている。なぜ10億円もするマンションが売れるのか。投資であれ実需であれ、10億円の価値を認めて買う人がいるからである。買う人がいるということは、そうしたマンションに対する需要があるということだ。

 流通市場の仲介サービスも同じである。価格の上昇に連れそれにふさわしい、より高度なサービスを求める人たちが増えている。しかし従来なかったような多彩なサービスと品質で応えようとしても時代遅れの上限規制があるためにそれができない。

 不動産業の原点である仲介市場の非近代性が不動産業界全体の底上げを阻み、国民からの信頼向上の障害にもなっている。その不条理に業界の側から批判の声が上がらないのが不思議である。更なる不思議は空き家対策としての新築総量規制を一笑に付す業界が、なぜ媒介報酬の上限規制を受け入れているのか。

 人口減少が続く中、不動産業界が富裕層に的を絞ったビジネスを展開することは自然な戦略だ。それは同時にマスではなく個々のニーズに深く入り込むということでもある。ある調査によれば日本は世界で4番目に超富裕層(純金融資産5億円以上)が多い国らしい。トップのアメリカが12万9千人、中国が4万7千人、ドイツが1万9千人、日本が1万5千人である。

 「富裕層が買う高額物件なら仲介手数料も高額になるから十分なサービスができる」という反論も聞こえてきそうだが、本当にそうだろうか。仲介手数料の額に応じてコストを掛け、サービスの質を上げる努力をしている会社がどれぐらいあるのか。サービスの質は一定でも高額物件ほど手数料が多くなるところに魅力を感じている会社のほうが多いのではないだろうか。つまり、現状のように媒介報酬規程による決まった枠内で企業同士が競争しているかぎり、流通市場に変革はないというのが筆者の見解である。

感謝される仕事

 媒介報酬の自由化は意外な方向からやってくる可能性がある。例えば、賃貸住宅管理業法の施行(21年6月)によって管理業務が注目されるようになったが、管理報酬にはもともと規制がない。管理業はそうした自由市場の中で企業同士が競争することで今後の発展も期待されている。

 また、今年半ばをめどに国土交通省が策定する「空き家管理業のガイドライン」では空き家管理業務に係る報酬についての明確な解釈が提示されることになっている。国土交通省の川合紀子不動産業課長は「ガイドラインを整備することで不動産業者の空き家業務参入を促し、それを機に国民から感謝される仕事が不動産業界に増えることを期待する」と語っている。

 未だに業界は「仲介手数料」という言い方をするが、あらかじめ決まっている手数料に見合う仕事をしているだけでは顧客の心にあふれるような感謝は生まれない。宅建業法も「報酬」としているが、辞書によれば、業務に対する〝感謝の度合い〟に応じて支払われるのが報酬である。

 今後、媒介の周辺で管理のような様々なサービスが自由市場の中で発展していけば、規制の枠内にある媒介市場の非近代性が浮かび上がってくるのは必定だろう。時代の先を読むプロとしての宅建士なら、今こそ媒介報酬自由化後に求められる新たなサービスとは何かを賢察しておかなければならない。

 人口減少で新設住宅着工の減少が避けられない中、期待がかかる流通市場だが、たとえストックは増えても「マイホームが一生に一度」の買い物にとどまっている限り市場の減退は避けられない。売買契約後も関与し続けるなど媒介サービスの多様化と品質向上で一生に二度、三度の住み替え需要を発掘していくことこそ、今後の流通市場に課せられた大きな使命となる。