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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇116 〝空きビル〟のチカラ 東京・蔵前に若者の風 築66年の物語をつなぐ

 空きビルの再生がどれほど地域の活性化につながるかーーを東京都台東区・蔵前で見せてくれたのが、今年の日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)で奨励賞を受賞した(株)ビルmoによる築66年ビルの再生プロジェクトだ(本紙2月6日号4面参照)。

 ビルmoの吉田賀織社長が相談を受けたときはオーナーが建て替えを検討していたこともあって、各フロア(4階建て)とも空室が目立っていた。しかし、吉田社長が「いずれは建て替えをしなければならなくなるでしょうが、今なら少しリフォームすれば十分テナントを呼び込むことが可能です」と説明するとオーナーも納得し、工事に踏み切ることに。

改修後は満室

 吉田氏は最小限の投資の中で〝清潔感〟を出すことに留意したという。改修完了後改めてテナントを募集すると、アパレルショップや洋書店、カフェなどが入居し各フロアがほぼ満室状態に。

 中でも1階のカフェ「半月」は古いビルでしか味わえない落ち着いた雰囲気が受け行列ができるほどの人気ぶりである(写真右)。筆者は並ぶのはあまり好きではないので断念したが、外から眺めても通り沿いの大きな窓から差し込む明るい光と店内のアンティークな家具との対比が魅力的に見える。

 諦めきれない筆者はほかに面白そうな店はないのかと近くを散策。すると、白い提灯に〝酒場〟と書かれた粋な店を発見。あとから分かったが、20年に開業したばかりのレモンサワー専門店。広島の無農薬レモンがたっぷり入っている(写真左)。店名は「イエロ」。立ち飲みだがそれが苦にならない居心地の良さがある。それは店主の接客マナーが効いていて、静かに見守ってくれている感じがいい。平日は16時から営業している。栃木の地鶏を使った唐揚げ(一個200円)はレモンサワーにピッタリで看板メニューとなっている。

 元骨董品店の物件を丸ごと改装したというからこちらも空き店舗再生プロジェクトだ。それが見事に当たり今は若い人たち(なぜかカップルが多い)が次々にやってくる。蔵前はもともと革製品を扱う問屋街だったらしく、今でもバッグ店やクラフト関係の店が散見される。どちらかといえば取り残された雰囲気もあるが、空きビルや空き店舗再生で少しずつよみがえりつつもある面白い街である。

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 2月21日には第18回日本ファシリティマネジメントフォーラムが新宿の京王プラザホテルで開かれJFMA賞授賞式のほか建築家の隈研吾氏による基調講演などが行われた(5面参照)。授賞式に臨んだ吉田賀織氏(写真上)は次のようにあいさつした。

 「築年数が経ったビルは、どんなビルでもそれぞれ異なる物語があります。私はそのように歴史をもって地域に根差すビルを未来に紡いでいけるビルの再生という仕事はとても魅力的かつ収益性の高い事業だと考えます。しかも、その魅力は間違いなく不動産の付加価値に直結し、ビルの健全なコミュニティをも形成します」