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酒場遺産 ▶25 東京・十条 斎藤酒場 愛好家の五指に入る老舗

 酒場愛好家の間では名の知られた斎藤酒場は東京五指に入る老舗酒場だ。埼京線東十条駅西口を降り、細い路地に入るとすぐに古色蒼然とした酒場の姿が見える。1928年(昭和3年)に酒販店として創業、戦後に二代目が酒場をはじめ、今は三代目女将が店を仕切る。暖簾をくぐると、黒いセルロイドの短冊メニューが店中に下がり、ケヤキ一枚板の大テーブルがいくつも並ぶ。十条は都区内であることを忘れさせるほど、昭和の空気たっぷりの町だ。中でもこの斎藤酒場には「酒場遺産」の言葉がふさわしい存在だ。酒も食事も豊富で美味い。徳利の燗酒は埼玉県蓮田の酒220円、他には銀盤・浦霞・奥の松など正一合400~500円程度、麦酒(サッポロ)、焼酎、酎ハイ、泡盛など、ともかく安い。つまみは肉豆腐、厚揚げ、鳥牛蒡炒め、イナゴ甘露煮、カブ浅漬、鮪ブツ切り、しめ鯖、黒酢ニンニク漬、奴豆腐、ポテトサラダ、もつ煮込みなど300円前後だが、どれも丁寧につくられており美味い。

 斎藤酒場を出て左(北)に進むと、南北長く伸びる十条銀座がある。筆者は月一通うほどの十条銀座ラバーだが、いくら歩いても飽きない。都心から20~30分の近さだが、ローカル度も物価も異次元。日常生活に根づき地元から愛されている。ナショナルチェーンはほとんどなく、個性豊かな個人商店が並ぶ。店から商品が通りにはみ出している。新鮮で豊富な食材が驚くほど安い。

 いくつかお気に入りの店があるが、いつも行くのは山形産食材を売るおばあちゃんの小さな店「ペロスケ」だ。斎藤酒場で酔っぱらう前にぜひ十条銀座にも訪れてみてほしい。(似内志朗)