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酒場遺産 ▶23 牛込神楽坂 角打ち 飯島酒店 暖かい人柄の店主と女将が魅力

 牛込神楽坂駅から徒歩5分、納戸町の住宅街の中にポツンと建つ飯島酒店は本物の角打ちだ。酒もつまみも原価販売、酒屋としての筋を通し「居酒屋」にはしない。日本酒、焼酎、ワイン、ビール、ノンアルコールなど何でもあるが、「酒屋」なので栓を開けずに瓶で売る。酒はワンカップや四合瓶もあるが、一升瓶のボトルキープもできる。つまみも乾きものだけで調理はしない。しかし時々、女将が田楽の小皿などをサービスで出してくれる。普通1000円もあれば十分だ。間口が狭く奥に長い小さな酒屋だが、両側の壁にはずらりと酒瓶が並び、その間に分厚い手づくりの木製テーブルが並ぶ。小さな角打ち空間だが、いつも近所の常連でにぎわう。

 飯島酒店は初代祖父から3代目、創業約100年。近くの細工町に長く店を構えていたが、11年前に次男坊の店主がこの場所に店を構えた。名前も武蔵野飯島酒店、丸十飯島酒店、そして移転後は今の飯島酒店へと変えたが、資金もなく古い店の看板や建材を使ったという。分厚い檜のテーブルは旧酒屋の梁(はり)、貧乏くさく恥ずかしかったと店主は言うが、今では希少な存在感を放っている。壁に貼られている昭和の女優たちのポスターも流行りのレトロ酒場のものと違い本物だ。一人で呑んでいても店主や常連との雑談となる。数年前、加茂鶴一升瓶を買い、一人では呑みきれずに隣席になった常連客らに振舞ったら、つい長居をしてしまい、還暦過ぎて闘病から生還した話、沖縄出身夫婦の東京での苦労話などに聞き入った。奥のレジ付近には、ボクサー・村田諒太(チャンピオン!)、棋士・万波佳奈さん来店時の写真も飾られている。暖かい人柄が滲み出る店主と女将が素敵だ。(似内志朗)