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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇101 シリーズ その想い、どこから アールシーコアの二木浩三社長に聞く 「こころのオアシスを提供したい」

 BESSが新たなブランド展開をする。それは「こころのオアシス」。現代社会は、情報の肥大化で人々の心が砂漠化している。だから心を解放し潤いをもたらす「ゆるみ」や「隙(すき)」が求められている。大人も子供もスマホが手放せないのは情報量の多さとスピードで心が追い立てられているからか。〝便利さに流される恐さ〟だとBESSは考える。(20面参照)

 そこで打ち出した新商品が「間貫けのハコ」。マヌケではなく、「間」と「貫け」だけをコンセプトにした家である。「間」とは個室や部屋ではなく居場所のこと。「貫け」は文字通り風や気が流れること。スムーズに流れるからこそ、そこにつながりが生まれるという発想だ。

 ――どうして、これほど一風変わった新商品を。

 「家づくりにおけるマやヌケは実はこれまでもBESSの家でずっと大切にしてきました。玄関をあけたらすぐリビングとか、大きな吹き抜けやロフトも、外に向けたデッキもすべて、マとヌケです」

 ――その象徴として設けたのが今回は縁側ということですが、デッキとの違いは。

 「デッキにはテーブルや椅子を置きますが、縁側に置くのは座布団ぐらいで床にそのまま座ったり踏み石に足をのせて腰掛けたりします。床座(ゆかざ)のほうが、ひとつながりの空間が生まれます」

 ――近年、他社の一般住宅でもデッキはときおり見掛けますが、縁側はほんとに見たことがありません。

 「それぐらい、心に余裕がなくなっている」

 ――近所の人を気軽に招き入れ、話をするという余裕でしょうか。

 「家族や地域の人たちとの何気ない時間がどれほど大切か。そんな日々をBESSは讃えたい」

 ――縁側とか、床座とかいうと、単なる懐古趣味と思われませんか。

 「そう思う人には思われるでしょうね(笑)。でも、これまでもBESSはBESSの家の面白さ、楽しさ、心地よさをなるべく多くの人たちに分かってもらうことに力を注いできました。今回の〝間貫けのハコ〟もその点は同じです。ただ、ここでそういうBESSの原点に帰ってみようと思う。本質回帰です。心にゆとりを持ちたいという需要層が拡大しているのを感じる。だから、これからのBESSは住宅業を超え、オアシス業へ向かうことで社会に役立てるのではないか。BESSのDNAで現代社会に潤いをもたらしたい」

愛はまぬけ

 ――キャッチフレーズの「まぬけは、愛だ。」にその想いがあふれています。

 「現代人は競争社会で勝ち抜くために、利口に生きることばかり考えています。その熱意は買いますが、人は同時に誰かとつながっていなければ生きられない存在でもあります。利口は逆に利己主義につながってしまいます」

 ――そこに気付いてもらう家が「間貫けのハコ」だと。

 「そもそも人間は不完全で不器用な存在ですから、それを肯定してくれる居場所が必要です。不完全だからこそ人間なんだと肯定してくれる場所、それが新時代のオアシスとなる」

 ――今回の新商品プレス発表会は2日に渡って行われましたが、両日とも盛況でした。社長のいつもの〝講話〟が人気です。今回も社長は最後に「善網恢恢粗にして漏らさず」と、また謎の言葉を発しました。これはもちろん老子の「天網恢恢疎にして漏らさず」が原型ですが、どういう想いからでしょうか。

 「老子の言葉は、天に張られた網から悪事は決して逃れることができないという意味ですが、私のほうは善の網があれば悪いことを捕まえるのではなく、いいことをしっかり捕まえることができますよという意味になります」

 ――善の網が「間貫けのハコ」で一見粗いように見えても、すべての人に通じる平和な暮らしがそこにあれば、誰もが寄ってくる。だから「まぬけは、愛だ」と。

 「住まいは人の心をとらえます。だから愛です。愛はまぬけでなければ、オアシスになりません」