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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇97 寒くて、暑い貧困住宅 産官学民の連携訴える 「健康・省エネ住宅推進会議」がシンポ

 東京の都心には数十億円するようなマンションもあれば、同じ都内でも、クーラーの電気代を惜しんだ高齢者が熱中症で死亡するような劣悪な環境の住宅も残っている。全く次元の違う話だが〝住まい〟の話であることもたしかである。

 総務省消防庁の調査によると今年、熱中症で救急搬送された人の数は8月20日までの速報値で7万410人。これは昨年の7万1387人を上回る勢いで、最終的に約7万8000人に達すると見られている。

 昨年も今年も搬送された人の約55%が高齢者で、約4割が住宅の中で倒れている。もちろん、熱中症になる要因がすべて住宅環境とは言えないものの、かなり大きな要因であることは間違いない。

 というのも、我が国の住宅ストック全体をみると、断熱性能レベルがまだまだ低い。世界保健機関(WHO)が勧告している冬季室温18度以上を満たす住宅が全ストックの1割に過ぎない(国土交通省補助事業スマートウェルネス住宅推進調査委員会第7回報告23年2月)。

3省課長が参加

 以上のような問題意識から、せめて一部屋だけでも「すべての国民が生命を守れる部屋を確保しよう」という趣旨のシンポジウムが8月30日、東京・市谷の「ルーテル市ヶ谷ホール」で開かれた。注目すべきは厚生労働省、国土交通省、環境省の3省が参加していたことである。

 厚労省の山本英紀健康課長、国交省の山下英和住宅生産課長、環境省の吉野議章地球温暖化対策課長の3氏がパネルディスカッションで顔を揃えた。主催した一般社団法人「健康・省エネ住宅を推進する国民会議」の上原裕之理事長は、厚労省が健康増進法に基づき展開している「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」(健康日本21)の第三次改定(令和6年度から適用)で、「建築・住宅等の分野における取組と積極的に連携することが必要である」という文言を入れたことを高く評価。更に、国交省が6年間に渡る「住宅と健康調査」のエビデンスを同省に提供していたことにも触れた。

 その国交省は今年度からZEHレベルへの改修費用に対しては国と地方による8割補助の仕組みを創設した。環境省も現在「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」(デコ活)を展開中だが、そのためには快適で健康な住宅が重要との考え方を掲げている。ちなみに、デコ活は「デ=電気も省エネ・断熱住宅、コ=こだわる楽しさ・エコグッズ、カ=感謝の心・食べ残しゼロ、ツ=つながるオフィス・テレワーク」というゴロ合わせとなる。

自治体の役割大

 パネルディスカッションに先立ち講演した、日本医師会前副会長の今村聡氏はこう語った。「日本ではお金がない人ほど病気になっている。その根底にあるのが住宅だ。住環境が不良であれば、結果的に疾病や要介護状態になり医療費や介護費の増加につながっていく。そうした連鎖を断つためには、これからは住宅政策を産業政策ばかりでなく、社会保障政策の一環として考えるべきである」。

 また、「住まいと住まい方がいかに健康に影響するかをまず、医療、介護、建築、自治体関係者が理解し合うことが重要だ」と指摘。「しかし、業界が違う人たちの〝連携〟は口で言うほど簡単ではない」とも。では、どうすればいいのか。

 今村氏は「関係者が一堂に会して議論し、共通認識を持つことが大事。そうした場をつくれるのは自治体しかない」として、自治体の積極的な〝場づくり〟を要請した。

 この日はほかにも、慶応大学の伊香賀俊治教授が「住環境の性能と健康との関係」と題して基調講演を行い、パネルディスカッションのパネラーには3省課長のほか、福島県の立谷秀清相馬市長、日本住宅リフォーム産業協会の盛静男会長、コープ住宅の小磯育央営業課長らが参加。議論は白熱し、まさに産官学民が連携する必要性を強く訴える内容となった。