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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇95 賃貸管理業法の波紋 浮上した報酬問題 仲介手数料にも波及か

 日本賃貸住宅管理協会(日管協、塩見紀昭会長)は8月4日、「賃貸管理リーシング推進事業者協議会」(推進協議会)を発足させた。管理業法順守のため管理と仲介の線引きを明確にし、管理業務の役割と責任にふさわしい報酬のあり方を模索する。受託競争が激化する中、業務の高度化・多様化が進み、「借主と貸主の利益保護」という管理業法の崇高な理想追求の気運も高まっている。にもかかわらず、管理報酬が「家賃の5%」という従来からの古い慣習に張り付いたままでは、管理業法の発展を阻害しかねない危機感が背景にある。

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 管理業法の完全施行(21年6月)を受け、日管協は今年3月、管理業務を87項目に分類した『セルフチェックブック』を発行した。内訳は管理業法の規定から該当すると思われる業務が14項目、日管協で標準化している業務が56、日管協の推奨業務が17となっている。つまり最低限行うべき業務から高レベルのものまで幅広く含まれている。ちなみに推奨業務の中には募集状況の賃貸人への定期的報告、各種修繕工事の記録保存、賃貸人に対する相続対策の提案などが挙げられている。

 このように多岐に渡る管理業務だが、最低限の業務しか行っていない業者と高レベルの業務まで行っている業者とではオーナーから受け取る管理報酬は違って当然という考え方が浮上してきた。これまで管理報酬は「家賃の5%」が慣習となっているが、その料率に根拠があるわけではない。そこで協議会では今後、仲介と管理の役割分担を見直しつつ、その先にあるテーマとして管理報酬問題に取り組むことにした。

 具体的には料率の根拠だけでなく、そもそも家賃連動制がいいのか、それとも定額制にすべきか。それも毎月払いか、年一括払いとすべきか。 更には、その年の家賃収益に応じて〝ボーナス制度〟を導入すべきではないかという議論もある。

 特にボーナス制度はその年の家賃収益が一定の成果を上げたときに支払われるもので、オーナーの理解も得やすいうえに、管理会社のモチベーションアップにもつながるため、十分検討に値するとしている。管理業法の施行で活気づく賃貸業界は今、管理報酬の自由化・多様化という新たな時代に向かい始めた。

古い慣習に風穴

 当初、管理業法に対する業界の反応は穏やかなものだった。2本柱の一つ、サブリースを悪用する不良業者に対する規制は当然だし、もう一方の登録制度についても、より質の高い管理を行う業者がオーナーや入居者から高い信頼を得られようになるという当然の効果を期待するものだったからである。

 しかし、完全施行から2年余を経た今、管理業法の波紋はそこにとどまらず、賃貸業界の古い慣習全体に風穴をあける方向に動き始めた感がある。その最大の焦点が、「報酬は業務の質に応じたものであるべき」という考え方の台頭である。

 こうした報酬に対する考え方の変化は、隣接する仲介業務に対する手数料のあり方論議にも火をつける可能性がある。仲介手数料も現行は、大臣告示の上限規定通りという慣習がある。しかし、管理同様に仲介業務も今後はその役割と責任を明確にしていく必要がある。両業務の線引きを明確にしようという推進協議会の動きがそこに拍車をかけるだろう。仲介の業務内容や責任が明確になれば、改めて手数料のあり方が問われるのは当然である。

 更に言えば、この賃貸仲介手数料に関する論議が売買仲介の手数料問題に発展する可能性も否定できない。管理業務同様に、賃貸・売買にかかわらず仲介業務もそのサービス内容やレベルに応じて報酬が変化してこそ市場メカニズムが働く業界になる。というより、管理報酬が多様化・自由化していく中で仲介手数料だけが現行のままなら、仲介業そのものの衰退につながりかねないという懸念すら抱かざるを得ないだろう。