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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇85 不動産STOってなに? 〝老人大国〟への備えを 気になる不特法への波紋

 STOは、Security(有価証券)をToken(デジタル化された財産的価値)として Offering(提供)することである。ということは、不動産STOは不動産という個別の価値を持った財産をデジタル有価証券として発行したものということになる。

 なんのためにデジタル証券化するのかというと、高度の流通性を得るためである。不動産という財産に投資した場合、その流通性(譲渡のしやすさ)は投資家にとって大事な要素となるからだ。

 そのため、不特法の不動産クラウドファンディング(電子取引)においても出資持分をST(デジタル有価証券)として発行する動きが20年頃から始まっている。エンジョイワークスが神奈川県葉山町の蔵付き古民家を宿泊施設に改造したプロジェクトもその一つだ。

 そうした新たな動きに対し、金融庁は不動産STについても他の株式や社債などのトークン同様に金融商品取引法で販売規制を課すため金商法改正案を今国会に提出している。これが施行されると不動産STも金商法上の有価証券となり、不動産クラウドファンディング事業者が自らSTを販売する場合には第二種金融商品取引業者としての登録が必要になる。

 この改正法は葉山プロジェクトのような不特法の匿名組合型(金銭出資)はもちろん、任意組合型(現物出資)にも同様に適用されるものと見られている。その場合、現物出資という任意組合型のSTも債権的権利とみなされて、不動産持分という性質が失われるのではないかという懸念もある。

 ただそこは、法改正後の政省令など運用方針が定まるまでははっきりしない。不動産業界側も、「任意組合型一口価格の大小、不動産登記名義の移転状態、任意組合事業の事業参加者としての権利の態様などをふまえて税務当局が個別に判断する事柄」と見ているようだ。少なくとも不動産としての評価が認められなくなるとは今の段階では考えていない。

 もっとも、任意組合型は相続対策が目的のため、その持ち分を途中で売却する必要は薄く、あえてST化して流通性を確保する必要はないだろうというのが一般的見方だ。ただ、例えば1口100万円の小口化商品を10口購入した親が生前贈与で相続発生前に2人の子供に5口ずつ渡していたような場合に、子供のほうはもらった500万円の小口化商品を急に現金化せざるを得ない事情が発生しないとは言い切れない。

若年層の資産形成

 国立社会保障・人口問題研究所がこのほど発表した予測によれば、日本の人口は47年後の2070年には8700万人まで減少し、65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合は38.7%と約4割に達することが分かった。平均寿命は男性86歳、女性92歳まで延びる。まさに〝老人大国〟となる。個人(家計)レベルでは資産形成や相続対策が今以上に重要課題となっているだろう。

 というのも、現役世代と高齢者人口の比率を見ると、20年には2人で1人の高齢者を支える構図だったのが、70年には1.3人の現役世代で支えなければならなくなるからだ。つまり現役世代も高齢者も生活は今以上に苦しくなっているものと思われる。

 不動産証券化協会の調査によれば、高年齢層に比べ現在の若年層は不動産投資に対する抵抗感が薄いという。今後は不動産投資が重要な資産形成手段となっていく可能性は高い。と同時に相続対策にもなる小口投資商品への需要が今以上に高まっていくとすれば、相続税評価が時価よりも圧縮される(平均7割程度)任意組合型不特法商品の特性は今後とも堅持されるべきものと考える。

 47年後は遠い未来と思うかもしれないが、日本の人口がかつて8700万人だった1953(昭和28)年は今から70年も前の話である。それに比べれば23年も早い速度で今度は逆に人口減という道を駆け下りることになる。気を緩めれば転倒しかねない危険な下り坂でもある。