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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇78 コンプラとはなにか 究極のCSか 生き残る種への進化か

推進センターが講演会

 1月18日に開かれた不動産流通推進センターの「不動産業におけるコンプライアンス確立に関する講演会」はアーカイブ視聴を含め約600名が参加する盛況ぶりだった。

 同推進センターは20年からコンプライアンス確立に向けた取り組みを続けており今回は組織レベルのコンプラ確立がテーマとなった。

 同推進センター教育事業部長の真鍋茂彦氏は講演会第二部(パネルディスカッション)の冒頭こうあいさつした。

 「公認不動産コンサルティングマスター、宅建マイスターの両資格における倫理規程の整備などを手始めに足掛け4年、業界内外に向けコンプライアンス運動を発信してまいりました。コンプライアンスは単に法令順守ということではなく、社会の要請に答える職業倫理であるという理念もかなり浸透してきたのではないかと自負しております」

 パネルディスカッションに登壇した旧三井不動産販売(現三井不動産リアルティ)の社長・会長を務め、現在はアトリウム会長の竹井英久氏も「業界トップの間ではコンプライアンスは消費者の信頼を得るための武器であり、成長戦略に欠かせないものという認識でほぼ一致している」と語る。

 とすれば、あとは企業が社員にコンプラ意識をどう根付かせるかということと、業界全体としての自主規制のあり方が課題となる。パネルディスカッションには竹井氏のほか、東急リバブル常勤監査役の橋本明浩氏、行政書士の石井くるみ氏、K―コンサルティング社長の大澤健司氏、リジュネビルド社長の妹尾和江氏が登壇し、その2つの課題について多彩な意見交換を行った。 

 そこでの主な論点は次のようなものだった。(1)米国ではNAR(全米リアルター協会)という大きな団体があって、ブローカー、セールスパーソンなど120万人の個人会員を擁し明確な倫理規定を定めているが、日本でもそうした強力な組織が必要ではないか。(2)日本は何の資格がなくても不動産営業ができる。これではコンプライアンス意識が高まらない。(3)コンプライアンスと顧客満足(CS)とは連動する概念だが、CSのレベルに応じるはずの媒介報酬が大臣告示にもとづく上限に張り付いている実態をどう考えるか。(4)媒介業務で宅地建物取引士が果たす役割は極めて重要。にもかかわらずその専門的能力が外部からは見えにくいことが消費者の不信を招いていないか。(5)宅建士の上位資格となるコンサルティングマスターと宅建マイスターの使命――などが議論された。

米国との違い

 それにしてもなぜ日本の不動産業はコンプライアンスの確立が遅れているのか。NARでは倫理規定を1913年に採択し、その後も各年次大会において随時改定(進化)を続けている。コンプライアンス違反に対する自主規制は日本よりもはるかに厳格だ。 日本の全国宅地建物取引業協会連合会や各宅建協会にも倫理綱領はあり、宅地建物取引主任者が「宅建士」に移行したときはそれに合わせて綱領を改定している。ただ、日本の綱領とNARのそれとを比較すると大きな違いがある。それは日本では宅地建物取引業法の順守に大きなウエートが置かれているのに対し、NARではリアルターの社会的使命をもっと大きな視点から捉えていることだ。

 22年1月1日発行のNARの倫理規定前文にはこうある。

 「すべての物は土地の上になりたっている。自由主義制度と人類文明が存続し発展し得るか否かは、土地の賢明な利用と土地所有権が広く分散しているかどうかにかかっている。REALTORS®は、土地の最高かつ最善の利用および土地所有権が幅広く行き渡ることが国とその国民の利益のために不可欠であることを認識すべきである」

 日本の不動産業が国民から全幅の信頼を寄せられる〝種〟として生き残れるかどうかは、コンプライアンス意識の進化にかかっている。