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新しい住まい方の選択肢 大手デベが新サービス提供 「アドレスホッパー」の現在地

 コロナ前から存在する、好きな場所に住み、比較的短期間で居住場所を変える「アドレスホッパー」(今週のことば)。新興企業や外資系中心にサービスを提供してきたが、コロナで誰しも働く場を柔軟に変更できるようになり、新しい住まい方の選択肢として大手ディベロッパーも参入してきた。大手ならではの強みはどこか、どのような入居者がターゲットなのか。「アドレスホッパー」の現在地を探る。(桑島良紀)

 三井不動産レジデンシャルは多拠点居住サービス「n'estate(ネステート)」を9月29日から試行的に開始した。場所・期間にとらわれず、「働く」「憩う」「楽しむ」といった行動が自由に、フレキシブルに実現できる新しいライフスタイルへのニーズに対応するものだ。「住の自由化」をコンセプトに、同社賃貸マンションシリーズ「PARK AXIS(パークアクシス)」を始め、三井不動産グループ企業やパートナー企業の施設を活用し、都市部の利便性を享受できる良質な住環境の「都市型拠点」と農業やサステナブルな取り組みを体験できる「郊外型拠点」を10カ所用意。同社では、今後も順次新たなトライアル拠点を追加していく予定だ。

 サービスが始まって間もないが、東京都心、地方で偏りなく利用されており、ターゲット層は、「都市型」で30~50代。繁忙期を中心に勤務地近くに住むことで通勤負担を軽減することや、観光を楽しむ拠点としてのニーズ、仮住まいとしての利用などを想定している。

 「郊外型」は30~40代のファミリー層。都心では味わえない自然の中での暮らしを小さい子供と一緒に楽しみたいといったニーズや、50~60代の本格的に農業を楽しみながら暮らしたいなどの利用を想定。同社では、「想定と合致するもの、こういうニーズもあるんだという新たな気付きが得られることもトライアルの中で期待している」という。

9割稼働、外国人に人気

 三菱地所が参入したシンガポール発の住まいの新たな賃貸住宅の形態であるコリビング「Hmlet(ハムレット)」。各住戸に備え付けの家具や家電があり、海外ではミレニアル世代に人気がある。特徴は、入居者同士のコミュニティ形成を重視し、コミュニティマネジャーが常駐する。入居は1カ月以上から可能だ。

 外国人に人気が高く、65%が外国人で、このうちアジア系が約4割を占める。都内20物件(432室)の稼働率は約90%。入居者は、8割が単身者だ。

 自由な住まい方について、三井不動産レジデンシャルが事前に行ったアンケートやインタビューでは、「多拠点居住」において、住み替えにかかる金銭的なハードル、セカンドハウスの探索やリフォームに要する時間的なハードル、手配や段取りが煩雑で気軽に行うことができないという心理的なハードルがあることが分かった。

 ハムレットの入居者は、日本人では「自分の好きな場所にいろいろ住んでみたいのでハムレットを選ぶという方が1割弱くらい」(Hmlet Japan)という。外国人では、仕事は海外とリモートで行い、日本を住まいとして選択。ロケーションがよく、英語で相談ができ、面倒な手続きがない点が評価されている。日本人も外国人もテック系企業やフリーランスが多く、日本人では30歳前後の比較的若い女性で、海外留学経験者が多いという。

グループの総合力生かす

 これまでスタートアップ系や外資系、最近ではグループのホテルを活用して、自由な住まい方を実現してきた事例が多かった。

 三井不動産レジデンシャルは、「ネステート」の展開について、(1)住まいや暮らしのハード、ソフト両面において顧客満足が高い商品・サービスはどのようなものか、1拠点目の提供で積み上げてきたノウハウを2拠点目にも生かせる、(2)顧客ニーズを2拠点目に反映できる、(3)1拠点目のあり方も含めたライフスタイル全体の提案―といったことが強みと認識。

 「三井不動産グループとしてオフィス、商業、ホテルなども提供しており、グループの総合力を生かすことで、新しい提案が可能なことが、他社のサービスとは異なるビジネス拡大の糸口になると考えている」(三井不動産レジデンシャル)という。