賃貸・管理 賃貸・地域・鑑定 マンション管理

不動産DXフェス パネルディスカッション 新たな顧客体験価値を創出 DX時代に生き残る ビジネスを変革する

 最新テクノロジーサービスの活用を通じた不動産業務の効率化や生産性の向上に向けた取り組みが始まっている。ITツールを導入し、使いこなした先には〝新たな顧客価値体験〟を創出するDXの世界がある。その道筋を示すべく、『不動産DXフェス2022/Summer』が9月25日と26日に開催された。2日目の26日は、売り上げの向上などを軸に、不動産企業や不動産テック企業が登壇して解説した。住宅新報が主催した。

 マンガやテレビドラマ「正直不動産」の主人公のモデルとも言われる、鈴木誠氏(誠不動産)は、デジタル時代に負けない営業力について、「現実の空気感や臨場感は、オンラインでは劣ってしまう。デジタルによって効率化は叶うものの、密なコミュニケーションが低下して〝思い出〟をつくりづらい。デジタル化ツールは、一度それぞれの業務に落とし込みつつ、顧客の喜びや自身の仕事の楽しさを改めて考えると、企業や人材が成長する」と説明した。

 野口真平氏(イタンジ)は、消費者と家主の双方から選ばれる不動産会社について、「DXは一足飛びには実現できない。ITツールは部分最適でなく、一気通貫なデジタル化で全体最適化し、ゴールを定めてビジネスを変革する。管理業務のストックビジネスの参入が激化し、クチコミで評価が可視化される時代。正確な情報提供や迅速な対応などの〝当たり前のことを当たり前に〟を求める消費者の声にいかに応えるのかがカギになる」と強調。これらを実現できるとして、同社提供の不動産業者間サイト『ITANDI BB』などを紹介した。

 森田博和氏(スペースリー)は、賃貸管理DXで業績を倍増する方法で、「新たな生活をイメージしやすい情報の提供が顧客接点づくりと成約につながりやすくなる。DX時代は、360度パノラマ画像など3次元情報の空間データを活用すると、内見時のバーチャルステージングなど、効果的に訴求できる。遠隔地の消費者に対応でき、意思決定を早めて先行申し込みや成約を後押ししつつ、想定との齟齬(そご)をなくしてクレームの発生を抑える」と説明。これらを実現するとして、同社提供の360度VR(仮想現実)・空間データ活用プラットフォーム『スペースリー』を紹介した。

 浮田一浩氏(WealthPark)は、不動産DXをけん引する不動産管理について、「建物管理から資産管理の観点が今後求められる時代になる。物件オーナーとの関係性づくりが重要となる。リノベーションの提案や新規の受注など、業務で長く深くつながる関係性を循環させていく仕組みの構築が要になる。オーナーアプリは、担当者の信頼感や相談しやすい環境を醸成しやすい。その効果を高めることで、選ばれる不動産会社に成長できる」と説明。同社提供のオーナー向け資産管理アプリ『WealthPark』を紹介した。

 中村秀造氏(Relic)は、不動産投資のDX化について、「DXは単純なIT化ではなく、デジタル技術の活用でビジネスモデルを変革すること。新たな収益ポイントを増やして、それを実現すれば、企業は成長する。不動産投資型クラウドファンディングは小口化商品を通じた収益に加えて管理業務で管理戸数を増やせる。周辺ビジネスを生み出せる」と説明。これらを叶えるとして、同社提供の不動産投資型クラウドファンディング構築サービス『ENjiNE』を紹介した。

 不動産DXフェスのパネルディスカッションでは、針山昌幸氏(Housmart)が進行を務め、不動産テックサービスを提供する、野口真平氏(イタンジ)、橘大地氏(弁護士ドットコム)、和田浩明氏(GOGEN)の各氏が登壇して意見を交わした。

 各氏の発言の要旨として、「5年ほど前までの不動産テックは、その名称自体が認知されず、導入の意義や効果に手応えを感じてもらいづらかった。この2~3年でデジタル化サービスに対する信頼度が格段に高まった。不動産業界の期待の高まりから、不動産テックサービス提供企業側では生き残り続けるためのサービス品質上の競争が激化し始めている」と近況を振り返った。

 そうした環境変化で、「ITツールに対する不動産会社各社の価値観が変化し、実際に成功体験を得た企業と得ていない企業の差が広がっている。いずれはポータルサイトの検索項目で電子契約対応の仲介店舗を選ぶことが当り前の時代になる。不動産テックサービスを通じていかに成功体験を積んでもらえるのか、引き続き支援していく必要がある」と今後を予測した。

 また、IT化が進展する時代の流れで、「人と人のつながりが低下するとの不安を聞く。ただ、業務を効率化できるITツールを使うことで、顧客接点の時間を創出できる。従来よりも直接の対面が〝密〟な時間になる。どちらかの一方に偏るのではなく、リアルとオンラインを適度に使い分ける方法がこれからは大切になっていく。不動産業界は本来、クリエイティブで魅力のある仕事。現状は離職率の高さや人手不足が危ぶまれているが、業務のデジタル化でスマートな業界になれば、優秀な若手人材が更に集まってくるのではないか」と展望した。