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コロナ禍、民泊どうなった? 主戦場を地方へ移す 長期滞在リゾート需要に商機 築古転用で二桁利回りも

 「平均70~80%で稼働し、行楽シーズンは90%以上。東アジア圏からの旅行客を中心に宿泊していますね」(ゲストハウス運営者)、「ここに数日滞在して東京を中心に観光を楽しみます」(マレーシアの親子)。新型コロナウイルス禍前に東京23区で8部屋を運営するゲストハウスを取材したときの一コマだ。夕暮れ時の取材中には欧米系とみられる白人がスマホ片手に訪れて部屋が空いているかと受付で尋ねている中で、取材に応じたオーナーは、将来20戸以上を運営していくと市場の拡大に疑いの余地はなかった。

戸建て一棟貸し好調

 訪日観光客の急増と東京五輪・パラリンピックを控えて商機拡大が見込まれていた民泊市場。だが、想定外の感染症の世界的大流行に見舞われ民泊事業の風景は一変した。緊急事態宣言の発令と外国人の入国が制限され、人流が凍り付き、民泊を運営するオーナーや仲介する事業者、業界団体からは「壊滅的な状況だ」と悲鳴の声が上がった。

 観光庁が6月末に公表した宿泊旅行統計調査の年間確定値によれば、昨年12月までの1年間の全国延べ宿泊者数は19年比で46.7%減と大幅なマイナス。客室稼働率は34.3%だ。タイプ別ではビジネスホテルが40%台にとどまりリゾートホテルと旅館が20%台、簡易宿所は16.6%と需要の鈍さが見て取れ、感染第7波が追い打ちをかける。

 ただ、コロナ当初とは違い政府の対応に変化もみられる。制限のない社会経済活動に向けて動くことをベースとする。コロナ不況が吹き荒れた中でも住宅宿泊事業の届出件数は6月時点で3万1003件となり、コロナ前の19年6月から1.3万件ほど増えている。事業廃止件数も急増しているが、雇用調整助成金などで耐え忍んだ事業者がリベンジ消費をうかがう。

 民泊事情に詳しい日本橋くるみ行政書士事務所(東京都中央区)の石井くるみ氏は、「民泊の展望としては、より事業性が強まりマーケティングが欠かせない。訪日客の本格回復が見込めない中で民泊事業は日本人を中心に動くかたちになる。たとえばコロナ禍でも好調に稼働したのがリゾート地域での一棟貸し。友人たちとのグループ旅行や家族旅行で利用したいという需要を吸収している」と話す。感染を意識して他の家族や団体と交わることのない使い方により民泊は郊外や地方での需要拡大を見込んでいる。

国内のみでビジネス成立

 コロナ前にムーブメントになったのが都市型民泊だ。東京や大阪など大都市に特区を創り出し国も支援した。

 民泊予約サイトを運営する百戦錬磨(東京都千代田区)の上山康博代表取締役は、「コロナ禍でもまれて市場は変わった。現状は厳しいが、コロナが収束すれば国内需要だけで民泊ビジネスは成立するだろう」と見通す。

 既にその兆しはある。「民泊利用者数は減ったが、宿泊日数が伸びている。ワーケーションなどで5泊から1週間の宿泊が増えており、地方に限らず都会も国内需要が長期滞在型にシフトしている。キッチンやランドリーを備えるなど長期仕様の品質にすれば十分にもうかる」と話す。

 もともと地方の民家や農家に宿泊することなどを民泊と称していたが、民泊の主戦場は地方に戻る。国内需要だけでなく訪日客の地方人気も高い。同社では民泊予約サイトの運用をなりわいとするが、関連企業を通じて地方での民泊運営も手掛けていきたい考えだ。「収益性は地方の方が高い。別荘地にある古い建物を500万~600万円で購入して長期滞在型の民泊に転用すると、利回りは二桁で推移しているケースが珍しくない」(上山代表取締役)。利回りが出れば物件の売買につながり、地方の〝負動産〟が動き出す。地方での民泊拡大が見込まれる中で、民泊施設の管理・運営を代行する住宅宿泊管理事業者が地方に少ないことが課題として浮上する可能性も出てきた。 (中野淳)