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~社会構造変化への対応~ (上) なお30万坪強の解約も 正念場のビル賃貸業界

 新型コロナ禍はいつまで続くのか。足元では、社会経済の正常化に向けて動き出しているが、再び感染拡大の傾向が強まっている。2年半に及ぶコロナ対応は、働き方に大きな変化をもたらし、オフィスのあり方は様変わりした。経営者は出社の意味合いを見いだす必要に迫られている。 東京都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の空室率は高止まりが続いている。三鬼商事が7月7日に発表したオフィス市況によれば、直近6月の平均空室率は6.39%となり、前の月から0.02%上昇した。今年1月から上げ下げが続き方向感が定まらない。需給バランス上、適正とされる空室率5%を上回り続けている。

 感染症の拡大は、空室率と賃料の両面においてトレンド転換の契機となった。21年は相応のビル需要が確認できたものの、先を読み切れない経営者心理も透ける。都心平均の賃料は23カ月下がり続けており、賃料底入れはもうしばらく時間を要する見通しだ。

 テレワーク動向は二極化の様相を強めている。出社と在宅を組み合わせてのハイブリッド体制と一部大手が導入する転勤の必要がなく全国どこでも居住地を決められる完全リモート体制。オフィスでの働き方を一定程度残して余剰床を返す動きが続く。なお30万坪強の解約が控えているとの見方もくすぶる。

 日銀の低金利政策は今後も継続される可能性が高く、良好な資金調達環境などを背景に日本企業の信用リスクは安定的に推移するとみられるが、社会構造変化に対応できないオフィスは申し分ない賃料負担能力を持つ企業から選ばれず、2次空室が急増するという見方が少なくない。

 保有資産の4割をオフィスで占めるJリート市場を見ると、6月末時点の東証リート指数は1966.90ポイントで終えた。長期金利上昇リスクの高まりが大きく意識されて指数は同月22日に1900.25ポイントまで下げたものの、長期金利を抑え込む日銀姿勢を受け1900ポイント割れを回避。今後の展開について、モルガン・スタンレーMUFG証券、調査統括本部エグゼクティブディレクターの竹村淳郎氏は、「年末までに2100ポイントが意識される展開になると思われる。向こう1年から1年半は強気にみていい」と話す。

 日米金利差に伴う歴史的な円安水準を受け、外資勢が日本の実物不動産を含めて振り向けるとの期待も集まっている。米投資ファンドは割安感が増しているとして物色する。ただ海外勢は一辺倒ではない。シンガポール現地の投資家は、「日銀が心配。Jリートは強気にはなれない」(竹村氏)と慎重派だ。日銀が持ちこたえるかという目線が海外では強く、特にアジア地域の待機資金(ドライパウダー)は減少傾向にあるという。

 もっとも、国内外とも経済情勢次第だ。金利は上げられない。そうした見方が根強い。基本的にインフレ政策をやめてしまうと景気後退になるというのが日銀の大義名分だからだ。一方、ロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギー価格上昇とインフレ抑制政策での株安は米国経済を揺るがし始めている。モルガン・スタンレーのストラジストチームは、5月のレポートで米国の景気インデックスが向こう5~10カ月で下げ始めると主張し、米国の不動産チームではそれと米国の不動産価格が連動する傾向があると指摘している。 (中野淳)