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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇36 〝転売型〟の妙 イメージ刷新 新・中間省略登記で利益還元

 凝り固まったイメージほど恐ろしいものはない。物事の本質を見誤る弊害がある。そのことに気付かせてくれたのは、福田龍介氏著の『新・中間省略登記』(改訂版)だ。不動産取引の様々な形態とそこにまつわる多くの課題を知ることができた。

 著者はまず、こう指摘する。不動産取引にはA↓Bという直接売買のほかにもA↓B↓Cというように中間者Bが介在する取引形態がある。いわゆる〝転売型取引〟である。こうした転売スタイルは不動産に限らず、あらゆる商品の流通過程において存在している(仲買、卸、問屋など)。にもかかわらず、不動産だけが負のイメージを持たれやすいのはなぜだろう。バブル時代にあった投機的な〝土地ころがし〟のイメージが残っているのも理由の一つだろう。

 しかし、考えてみればこの中間者Bが介在する転売型は様々な機能(メリット)を持っている。例えばということで、福田氏は以下のようなケースを挙げる。(1)Cは法人でA所有の不動産を購入したいが過去に取引実績のないAとの直接取引は内規によって禁止されているのでBに介在してもらう。(2)土地所有者Aは相続税納付のために土地を売却したいが近隣のCにだけは売りたくない。しかしBにだったら売ってもいいし、Bがそれを誰に転売してもかまわないという土地所有者は案外いる。(3)Aに融資している金融機関が融資金回収のためAに所有物件を売却させたいが、経済的信用が高く確実に代金を払ってもらえるBに売ってほしいという場合。

 福田氏はこう語る。「これらのケースでBが物件の所有権を取得する必要性はなく、売買契約上の買主(Aに対し)兼売主(Cに対し)になることだけに意味がある。だから、Bが新・中間省略登記を活用して流通コストを下げることは極めて合理的である」。つまり同氏が言いたいことは、「転売型取引はそれ自体に意味や効能があって、そこでBが新・中間省略登記を利用するのは転売型取引に更なる価値を付け加えただけのことである」ということだ。同著が広く読まれることで、転売型取引と新・中間省略登記に対する理解が一段と深まることを期待する。

増える買取再販

 ところで、転売型取引の代表は言うまでもなく買い取り再販ビジネスである。再販事業者Bが所有者Aから区分マンションや戸建て住宅を買い取り、リノベーション後にCに転売するスタイルである。老朽化物件が増えている近年はこうした買い取りビジネスが都市部を中心に増加傾向にある。こうしたビジネスの課題の一つが買い取り価格に対する信頼の問題だ。最近はAIによる一括査定など信頼向上に向けた努力がなされているが、そうしたシステマチックなものに頼らずとも、売主や再販先の買主からも信用してもらえる方法があると福田氏は言う。

 「再販事業者が新・中間省略登記を利用すれば、利用しない事業者よりも売主からはより高く買い取り、買主にはより安く売ることができる。なぜなら新・中間省略登記によって流通コスト(不動産取得税+登録免許税)が削減できるからで、その範囲内(不動産評価額の4%前後)のことになるが、その差が熾烈を極める買い取り再販市場においては大きな意味を持ち始めている」。

 事実、新・中間省略登記を積極的に利用している大手不動産会社から「年間数千万円~億単位の金額を取引当事者に還元できている」という感謝の言葉が福田氏に寄せられているという。同氏によれば「同じ再販ビジネスでも、これまで新・中間省略登記を採用していたのは投資用の賃貸マンションが大半だったが、ここにきてある居住用不動産の大手買い取り企業が採用の方針を決めた」という。

 今後は、多様な機能・メリットを備えた転売型取引構造(福田氏はこれにクッションモデルという新たな呼称を用いてイメージチェンジを図ろうとしている)に対する社会の理解が進み、クッションモデルを土台とする新・中間省略登記に対する正しい理解も加速するものと思われる。