マンション・開発・経営

飛躍への岐路 踏み出す一歩 マンションでも進むCO2削減 手法工夫し実現目指す各社

 「カーボンニュートラル」という世界的な潮流に対し、ビルやマンションの開発を主力とする国内のディベロッパーも本腰を入れ始めている。しかし省エネ・創エネなどCO2削減を進める上でマンションには特有の課題があり、思うように実現が進んでいないというのが実態だ。そうした中でもZEH-M(ゼッチ・マンション)の実現を目指す創意工夫の事例を紹介したい。

 21年は、特にマンションにおいて「カーボンニュートラル」への取り組みが大きくクローズアップされた年となった。しかし逆に考えると、戸建てでは既に相当程度ZEHが普及しているにもかかわらず、なぜこれまでZEH-M化が進んでいなかったのか。また、なぜ「今後開発するすべての物件をZEH-Mに」と言い切れない企業が多いのかが問題だ。

 大きな課題は、再エネ設備とコスト負担だ。ZEHは断熱・気密や高効率設備などによる省エネと、使用電力を創出する再生可能エネルギー設備との両輪が基本となるものの、マンションなど高層建築物では、住戸数に対して十分な太陽光発電設備(PV)の設置スペースが確保できない。更に設置時の屋上防水加工の手間や、建築基準法における高さ制限より実質的な建物高さ(またはPV設置角度)に影響を与えるといった要素も指摘されている。

 もう一つの課題が、省エネ性能向上に伴うコストの増加。躯体の断熱性能向上、窓・サッシ・ドアなどの高品質化、高効率な給湯・暖房設備など、ZEH-M化を図る上で事業コストの増加は避けられないものの、〝誰がそのコストを負担するのか〟が悩ましい問題となる。ZEH-M化による価格上昇は販売の足かせとなる懸念が大きいが、ディベロッパー側がそのコストを負担するならば事業採算性の悪化は避けられない。そのため、ZEH-Mの開発にはおよび腰とならざるを得なかった。

他業種と協力しコスト分担

 このコスト面の課題に対し、新たなアプローチで解決を図る動きも現れている。

 21年12月、アーバネットコーポレーションとオリックス銀行、メイクスの3社は、投資用マンションのZEH仕様化に伴うコスト負担を各関係者が分担し、開発の促進につなげるという業界初(アーバネットC調べ)の取り組みを発表した。〝薄く広く〟負担を分け合うことで、事業性を極力損なわずにZEH-M化を進めるという発想だ。

 仕組みとしては、まず同銀行がアーバネットに対し、用地取得・開発の資金を融資する際の金利を引き下げる。アーバネットはZEH-M化費用の一部を負担しつつ、販売価格にも一定程度上乗せし、メイクスは個人投資家に高付加価値物件として販売。賃借人は光熱費の削減や快適性の対価として、ZEH-M化費用の一部を賃料として負担する。

 いずれか一者だけで負担するとデメリットが目立つZEH-M化コストを、複数の主体が分担することで軽減。同時に、環境配慮型融資の実績や融資自体の機会創出、物件の訴求力向上、資産価値向上、居住環境向上など、メリットについては各自がほぼ完全に享受できるという点がポイントの仕組みだ。

 この取り組みの第1弾として、アーバネットは東京都練馬区でZEH-M Oriented投資用マンション(4階建て、全36戸)の開発事業に着手。通常のマンションと比べ、1戸当たり50万円程度開発コストが増加するものの、負担の分散により事業性を維持できるという判断だ。同社の服部信治社長は「今回の取り組みをきっかけに、他の金融機関や開発企業等も同様のスキームを採用することで、投資用マンション市場におけるZEH化の普及促進を願う」と語っている。

建設工事でもCO2削減

 野村不動産は神奈川県相模原市で、新築分譲マンションとしては国内初(同社調べ)となる〝電気・ガスCO2排出量実質ゼロ〟の「(仮称)相模大野4丁目計画」(全687戸)の開発を進めている。ZEH-M基準のクリアに限定せず、高断熱・高効率設備の導入をはじめ、様々なアプローチを駆使してCO2排出量の削減につなげていることが特徴だ。

 まず、東京ガスの供給する「カーボンニュートラル都市ガス」や、実質再生可能エネルギー100%の電気料金プラン「さすてな電気」を採用し、使用するエネルギーのCO2排出量〝実質ゼロ〟を図る。また約200台の屋内駐車場全区画に電気自動車充電設備を設置し、EVの普及や利用を後押しする。

 加えて、建設時のCO2削減にも力を入れた。大きな取り組みとしては、既存建物(旧伊勢丹)の躯体を一部再利用することにより、それを解体・新築した場合と比較して合計35%以上のCO2削減効果を見込んでいる。そのほか、工事に利用する電力には実質再生可能エネルギーを導入。物件そのものだけでなく、その開発過程における脱炭素化も重視している点が異例と言える。

新たなアイデアの余地あり

 このように、マンションの脱炭素化に向けた手法は、建物の性能自体の向上に捉われることなく、事業スキームや開発地の特性を生かすものなど、新たなアイデアが登場してきている。脱炭素化、ZEH-M化に伴うコスト増は確かに避けられない課題ながら、その解決に向けたアプローチには十分に工夫の余地があると言えるだろう。