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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇24 不動産業の「原点」を忘れない 65周年迎えた北澤商事 ブックカフェで地元を元気に

〝お艶さん〟に会え

 賃貸業界で活躍するハローニュース社長の吉松こころ氏によると、全国賃貸住宅新聞社では、記者として入社すると「まずは、お艶さんところへ行ってこい」と言われるのだという。全国賃貸住宅新聞は吉松氏が独立するまでの12年間記者修行をした業界紙で〝お艶さん〟とは、東京・足立区を地盤とする北澤商事の北澤艶子会長のことである。

 ではなぜ、北澤会長に会うことが記者としての第一歩にふさわしいのだろうか。それは北澤会長を知ることが、不動産業の原点に触れることだからである。不動産業の原点とは何かと言えば、地域の人たちの暮らしに貢献することである。

信用が第一

 北澤商事は今年創業65周年を迎えた。これほど長い間、不動産業を続けてこられたのは、常に地元での信用を第一義としてきたからである。

 地元の人たちから信頼され、家族同様のお付き合いをさせてもらっている人たちも多いという。「不動産業は私の天職」という北澤会長は、地域への感謝の気持ちをどう表すべきかを常に考える。このほどオープンした「ブックカフェ ハレキタザワ」(足立区六月2の33の3)もそうした思いの表れだ。

 当然、営利目的ではない。地域の人たちが気軽に立ち寄って憩いのひと時を過ごしてもらうための場所である。所蔵している本は約2千冊。日本と世界の文学全集を始め、あらゆるジャンルの本が並ぶ。すべて北澤会長が自分と子供たちのために買い求めてきたものである。

 図書館法の関係で、本の貸し出しはできないが、心地よいアンティークの椅子やソファに腰かけ、また美しい庭園などを眺めながら自由に本を読んだり、勉強をしたりすることができる。

 営業時間はAM10時からPM5時まで。入場料300円で何時間でも滞在することができる。給茶機でのコーヒー、緑茶、麦茶などはいずれも飲み放題だ。

 北澤会長は「あまりルールなどは定めず、静かに勉強や仕事をしたいというときにはお弁当を持ち込んでいただいてもいい」と話す。

 「大事なことは、ここが地域の人たちにとって、ほかにはない貴重な場所として役立ってもらえるようになること。そして、地域の人たちの気軽な交流拠点になってもらうことです」と語る。

 そのため、貸し切りにしてプライベートな親睦会やサークル活動など様々なイベント会場として使ってもらうことも想定している。利用料は3時間で1000円(入場料300円×人数は別途必要)。

 さらには北澤会長のご主人北澤正夫氏によるハワイアン(ウクレレ)教室や、娘さん主催の読書会なども予定しており、現在参加者を募集中だ。連絡先は電話03(3859)1141。Instagram @bookcafehalekitazawa

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 北澤商事の地元・西新井には関東三大厄除け大師として有名な「西新井大師」がある。ただ、正月の初詣客による賑わいを除けば弘法大師(空海)ゆかりといわれるほどの名刹を生かし切れていない。

 「なんとか地域を活性化したい」というのが北澤会長の悲願である。「そのためには大掛かりな仕掛けというよりも、まずは地元の人たちが心を通わせる場をつくりたい」との思いもブックカフェ誕生の背景にある。

 コロナで人々の心に何かが芽生え始めた今だからこそ、地元を元気にしたいという北澤会長の願いにも力が入る。