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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇3 座談会「コロナ禍中のDX」 成長企業の営業責任者が本音で討論 顧客に寄り添う賃貸管理とは

 賃貸住宅管理業法の施行によって「賃貸不動産経営管理士」という新たな国家資格が誕生した。これは不動産業界にとって歴史的転換点となる。なぜなら、売買と賃貸の両市場に片や宅地建物取引士、片や賃貸不動産経営管理士という〝二大士業〟が並び立つことになったからである。折しも、日本の賃貸住宅市場変革を目指す熱い不動産管理会社4社がオンラインでの討論会を開いた。

 不動産市場を大きく変えようとしているのが、デジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)化である。デジタル化は電子契約、チャットによる情報伝達、AI(人工知能)による価格査定など分かりやすいが、DXとなるとまだイメージしにくい人が多いのも事実だ。

 これについて、ある座談会に出席していた福井県小浜市の平田不動産社長、平田稔氏はこう発言した。

 「DXはデジタルに何かを×(掛ける)ことです。何を掛けるか、それはその会社が考えればいい。当社は顧客への思い(愛)をデジタルに乗せて届けようと思います」

熱い4社が集結

 平田社長が出席していたのは6月3日にオンラインで開かれた「コロナ禍中のDX~繁忙期振り返り座談会~」。これは、不動産管理業務のデジタル化を目指すウェルスパークと、360度VRで知られるスペースリーが共同主催したもの。

 名古屋のニッショー、川崎のエヌアセット、熊本の明和不動産、福井県小浜市の平田不動産4社によるトークセッションで各社の営業責任者が本音で語り合った。営業圏はそれぞれ離れているのに、リモート時代の象徴か4人は旧知の関係のようで、ジョークも飛び交う楽しい討論会となった。

従前者の意見

 コロナ禍での顧客動向の変化について話し合うコーナーでは、明和不動産の川井田昌康氏(賃貸事業部エリアマネージャー)がふと漏らした言葉が筆者には新鮮だった。 「(賃貸でも)住んでいた人の意見は聞きたいのでは」 おそらく、どのポータルサイトや会社のホームページにも、従前住んでいた人のコメントが掲載されている物件情報はないのではないか。例えば、「西の部屋の窓からは美しい夕日が眺められます」というように――。ちなみに明和不動産では現在、その準備を進めているらしい。

 ニッショーの鈴木伸哉氏(営業企画課長)は「HPは97年から本格的に取り組み始めたが、呼び込み来店率(メールなどで問い合わせてきた人の来店率)が60%に達した」ことを報告。ネットによる反響来店率は一般に6割が成功ラインと言われている。

 鈴木氏はその背景には「家に対する考え方が大きく変わってきたことがある」と指摘する。それは推察するに家を選ぶ基準に深みが出てきたということではないか。つまり、駅からの距離とか、間取りとか、設備などのハード面だけでなく、ソフト面にもこだわる人が増えてきているのではないか。そうだとすれば先ほどの「従前居住者のコメント」などHPに載せる内容が来店率に大きく影響する。

 エヌアセットの上野謙氏(営業部長)は、デジタル化について「うまくいく分業と、うまくいかない分業」があると話した。筆者もデジタル化は一連の不動産取引の分業化を加速すると見ている。そして分業化によって生産性を上げ、その恩恵をユーザーにどう還元するかが鍵だ。

   ◇     ◇

 平田不動産の平田社長は今年の繁忙期を振り返るコーナーで、「反響や成約数は戻った。市場の回復は早いと感じる」と述べた後で、意味深にも「ただ、心が戻っていない」と語った。「飲食店やサービス業の苦境は続いている。苦情もクレームも増えた。でもだからこそ、我々はこの町の人たちと苦楽を共にする覚悟がなければならない」。

 では、そのために社として何をすればいいのか。結局、デジタルに何を掛けるかという問いに帰着する。