マンション・開発・経営

新トップが語る、これからの住宅事業 再構築へブランドに磨き 三井不動産レジデンシャル 嘉村徹社長

 三井不動産グループの住まいづくりの中核企業である三井不動産レジデンシャル。今年4月に嘉村徹氏が新社長に就任した。今年は50周年を迎えた住宅ブランド「パークシリーズ」をリブランディングし、新たなコンセプトを掲げる。また、主力である新築分譲住宅のほか、これまで注力してきた賃貸住宅やシニア住宅事業に加え、マンション再生事業を将来の中核事業と位置付ける。中長期的には少子高齢化や世帯数減少という課題を抱え、目の前の新型コロナにより変革を余儀なくされる環境の中、嘉村新社長は、どのようなかじ取りをしていくのか、話を聞いた。(聞き手=桑島良紀)

提供価値を見つめ直す

 ――改めて社長就任の抱負と、マンション市況をどう見ているのか。

 「住宅分譲事業は波が大きな事業ではあるが、これまでお客様の声をきちんと聞いて住まいづくりをしてきた。リーマンショックも経験したが、そうした中でも安定的に収益を上げられる会社になった。それ以上に大事なのは、お客様から安定的に評価をいただいていることだ。ただ、未来の住まいや暮らしを提供していこうという点では、まだまだ道半ばとは思っている。

 マンション市況は長い目で見ると人口減という課題はあるが、短期的、中期的にはさほど悪い状況ではないと思っている。新型コロナで1年ほど前はモデルルームを閉めていたが、再開後には都心物件はもちろん、郊外の物件にも関心が寄せられている。また、資産性が高い高額物件も売れている。新型コロナで住宅へ関心が集まったのではないか。確かに景気の悪い状態だが、住宅が欲しい方に対して、欲しい住宅を提供すれば売れるということを実感した。ただ、金利が購買力に与える影響が大きいので、金利動向の先行きには注視していきたい。

 地方に関しても、仙台や広島といった政令指定都市の中心市街地の再開発物件のタワーマンションの売れ方などを見ると、東京で起きていることが一定以上の規模の都市でも起きているのではないか。今後も展開エリアを拡大していくが、その際にはアフターサービスも含めたきちんとした対応ができるよう体制を整えていきたい」

 ――リブランディングをして打ち出した、新たなコンセプト「LifeStyling×経年優化」を実現するための取り組みは。

 「リブランディングというと会社の方向性が大きく変わるような印象となるが、これまでの我々の分譲住宅事業は一定程度のマーケット存在感やお客様の評価があると認識している。ただ、長い目で見ると、マーケットが大きくなっていくものではない。自分たちがしてきたことをもう一度見直して、自分たちが提供してきた価値を再定義してお客様にも伝えたいということで行っている。

 『経年優化』というのは造語だが、建物は時間が経てば古くなっていくものだが、これもそう簡単に劣化しないということであるし、それ以上に生活がよくなっていくことが必要だ。そのためには、自分たちがお客様に価値の提供ができているのかを確認する必要がある。

 リブランディングは自分たちがお客様にどのような価値を提供してきたかを見つめ直す機会でもある。商品企画の段階から販売やその後の管理まで、提供価値を確認する流れに変えている。お客様がどのようなライフスタイルなのか、どういう考え方なのかを常に問うことを行っている」

マンション再生を中核事業へ

 ――マンション再生を将来の中核事業と掲げているが、その意図は。

 「マンション再生としているところがポイントだ。古くなったマンションに対して、経済合理性を考えると床面積が小さくなってしまうなどで建て替えが難しい場合もある。また、様々な理由で建て替えられない場合でも、ソフトの施策として用途変更をすることで経済的価値を上げることもある。

 人が入れ替わっていくことで、新しいにぎわいや活性化につなげていく。ここに三井不動産グループの総合力が生かせると考えている。40年、50年と経過し社会情勢も変わっている中で、建て替えだけでなく、再生するということが大事だ。

 具体的な事業として、国立競技場近くの「外苑ハウス」の建替事業や一番町(ライオンズマンション一番町第2建替え事業)、浜松町(浜松町ビジネスマンション敷地売却事業)など23物件がある。これを順次増やしていきたい。

 これまでにシニアレジデンス事業、賃貸住宅事業と手掛けているが、特に、賃貸住宅事業は大きな柱になっている。一生、賃貸住宅でよいと考えるお客様の志向に応えるために、しっかりとした賃貸住宅を供給していかなくてはならない。新型コロナで様々なことが見えてきた。様々な期待を持つ多様な層のお客様がいらっしゃる中で、分譲住宅事業もそれ以外も強くしていかなくてはならない」

 ――顧客ニーズに応える「すまいとくらし」の創造に向け、社長として重要と考えることは何か。また、社員にはどのようなことを期待するか。

 「新型コロナもそうだが、お客様のニーズは多様化している。世の中の新しいニーズに対して、ハードでもソフトでも『すまいとくらし』の新たな提案をしていかなければならない。勝どきの物件は、昨年4月、5月の新型コロナのときに販売直前で急きょ間取りや共用部を見直した。

 社員が普通の感覚を持っていなければならないし、それをきちんと吸い上げられる会社でなくてはならない。社員が普通の感覚でいるためには、いろいろな社員がいなければならない。

 また、社員には謙虚であることを大切にしてほしいと思っている。物件が売れていることはすべて自分たちの成果ではない。自分たちには足りないものがあると自覚しなければ、世の中から簡単においていかれる。何が正しいのか、常に自問自答することをベースにすることが大切だと思っている」