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コロナ禍で岐路に立つ民泊 多彩なサービスが普及を後押し 新たなニーズが台頭 民泊法施行2年、観光需要は急減

 民泊法(住宅宿泊事業法)が18年6月15日に施行され、2年が過ぎた。この間に、民泊を巡る環境や事業のあり方が大きな変化を見せている。特に、20年に入り世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症の影響は極めて大きい。そうした中、住宅ストック活用の選択肢として、民泊事業はどのような展開を見せているのか。まさに岐路に立っているとも言える民泊の現在を追った。(佐藤順真)

 観光庁の集計によると、民泊法に基づく民泊事業の届出件数は、7月7日現在で2万6473件。同法施行日から約12倍に増加しており、直近3カ月ほどは新規登録のペースが緩やかになっているものの、累計の数字は引き続き伸び続けている。

 一方で、現届出住宅数は2万449件(前月比317件減)であり、5月から3カ月連続で減少。つまり、廃業数が新規登録数を上回る状況が続いている。

 民泊は当初からインバウンド観光客の需要が中心であり、新型コロナウイルス感染症の影響により、旅行・宿泊事業の中でも特に大きな打撃を受けている分野。数字を一見すると、同感染症により「民泊離れ」が始まったようにも受け取れるものの、その判断は早計のようだ。

 届出住宅の事業廃止は、19年9月頃から既に増加傾向を見せていた。直近3カ月は高水準で推移しているものの、同感染症の影響だけが廃業の要因とは考えにくい。同法に基づく民泊事業を所管する、同庁観光産業課民泊業務適正化指導室の地主純室長は、「同感染症の影響はもちろん大きい。しかし、それがすぐに民泊事業自体の廃業につながるとは限らず、実際に4月までは届出住宅数は増加が続いていた」と話す。

 同法に基づく民泊事業は、住宅専用地域でも営業できるという強みを持つ一方で、年間営業日数を制限する「180日ルール」などの制約もある。そこで以前から、営業日数に制限のない、旅館業法に基づく簡易宿所形態に移行するケースが多く見られ、これが民泊法上の届出住宅の〝廃業〟につながっていた。

 加えて、民泊はホテルなどの宿泊施設と比べ固定費負担が小さく、事業環境が悪化してもすぐには廃業せず、休業して様子を見るという選択肢のハードルが低い。半面、ハードが「住宅」であるため、ホテルや旅館等と比べて売却や賃貸という選択も容易。投資回収のため、早めに見切りをつけて物件を売却するケースもあるようだ。

 このように、民泊の置かれている状況は複雑化し、選択肢も多様化している。当初期待されていたような、増え続けるインバウンド観光客の〝受け皿〟需要を見込んでいるだけでは、今後の事業継続が危ういことは明白だ。

 それでは現在、民泊関連事業者はどのような事業展開をを図っているのか。

 地主室長は、「新型コロナにより、ほかの事業分野と同様、民泊にも新しい動きが出てきている。その中には、同感染症により生まれた新たなニーズに対応したサービスなども見られる」と語る。

 コロナ禍に対応した民泊新サービスとして、最も象徴的なものの一つが、〝隔離施設〟としてのサービスだろう。マツリテクノロジーズ(東京都豊島区、吉田圭汰社長)は3月、海外からの一時帰国や、同感染症検査陽性者の家族や濃厚接触者の自主隔離といったニーズへの対応として、情報検索サイト「一時帰国.com」「自主隔離.com」を開設した。この種のサイトとして、国内で最もニーズを集めている(同社調べ)という。

 両サイトでは民泊をはじめ、ホテルやマンスリーマンションなどの物件情報に加え、一時帰国の場合は送迎や食料支援などのサービスも提供している。更に現在は提供サービスを拡充し、全体を短期賃貸プラットフォーム「Sumyca(スミカ)」として運用。引き続き、旅行に限らずユーザーの〝居場所〟の提供に努めている。

テレワークの場としても

 また、同感染症の拡大で急速に普及したテレワークに対応するケースもある。

 アパート建築とその運営管理を主力事業とするMDI(東京都中央区、井村航社長)は5月、同社の運営する大田区の民泊「M-1 TOKYO 東矢口3」でテレワーク設備を充実化。ワーキングスペースとしての需要の取り込みを図っており、「今後も需要に応じて、施設の拡大などを図っていく」(同社担当者)方針だ。

 ただし同法により、民泊事業における住宅の用途はあくまでも「宿泊(または入居)」に限られる。コワーキングスペースのような「時間貸し」は規定から外れるため、ワーケーションなど1日~数週間といった「滞在型」のビジネスと相性がよさそうだ。

「民泊の強み」活用を

 更に民泊は文字通り住宅であり、ホテル等の宿泊施設と異なり共用部分がない(または少ない)独立空間を提供できるため、他者との接触に伴う感染リスクを低減できる点も強みになる。

 地主室長は「強みを生かし、新たな用途やサービスを提案することで、民泊の需要は伸ばしていけると考える。いずれにせよコロナ禍以降、インバウンド主軸では事業は成り立たないので、従来からの課題である地方部を中心に、国内市場を開拓していくことが必要だ」との見解を示す。併せて、「新たなサービスをきっかけに民泊を体験する人が増えれば、国民の認知や理解も進むはず。コロナ後の社会における、国民と民泊の〝上手な付き合い〟にもつながれば」と期待を寄せた。