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社説 35条書面等の電磁的方法による交付 実務の簡略化と安全に応える

 10月1日から、「賃貸取引における重要事項説明書等の電磁的方法による交付」(重説書等のデジタル交付)と「個人を含む売買取引におけるITを活用した重要事項説明」(IT重説)の社会実験が始まった。賃貸取引では既にIT重説の本格運用が始まっているが、書面の交付については対面や郵送しか認められなかった。今回の重説書等のデジタル交付はこれを一歩も二歩も進めたものだ。

 かねてから、35条書面(重説書)と37条書面(契約書など)については、特に賃貸取引においてデジタル交付が求められていた。昨今の不動産テックの推進により、賃貸取引、管理のIT化が急速に進められ、内覧から申し込み、重説までがインターネット上で行えるようになった。ユーザーは遠隔地にいても希望物件を確認し、契約上大事な事柄を重要事項として説明を受けられる。しかし、そこから先が問題だ。宅建業法35条でも37条でも、「事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない」「…書面を交付しなければならない」とあり、法律上はいずれの書面もアナログのものでなければならなかった。まさに、〝ラストワンマイル〟。最後の区間がつながらないために、手間と時間がかかっていた。今回の社会実験では、大手、中小事業者、不動産テック業者など113社が参加登録した。業界の期待がうかがえるので、しっかりと実務をこなしてほしい。本格運用には法改正が必要なので、国にも早急な対応を期待したい。

 IT重説や電子書面交付には、遠隔地の顧客の移動や費用などの負担軽減、重い障害やけがなどで外出が困難な場合にも対応できるメリットがある。もちろん、顧客の同意が大前提であり、そうしたメリットを感じる人はITで行えばよいし、そうでない人はこれまで通りでも構わない。要はメニューを増やしたということだ。

 一方、売買取引に係るIT重説は順調とは言えない状況だ。法人間取引に限って社会実験が行われたが、数件にとどまった。元来、法人間取引は契約に至るまでの過程で物件について随時詳細な確認を行う傾向がある。個人にも幅を広げた今回の実験には59社が参加登録しており、売買においても進む可能性があるだろう。

 ただ一つ心配なのは、IT重説について、不動産投資用物件で積極化させようという動きだ。投資用物件なら、自己居住用と違い投資家を対象に広まるのではという考えだ。しかし、投資用物件では、若年層を対象にした強引な営業が横行している。国民生活センターでは、ある種の事業者がターゲットを若年層に切り替えているという。IT重説は機器の使いこなしなど若年層の利用が多い。IT重説の普及が強引な営業に拍車をかけることがないよう、業界団体を筆頭に不動産業界全体の信頼を損ねることがないよう努めてほしい。