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社説 約30年ぶりの「不動産業ビジョン」 人口減少時代の新たな指針目指す

 国土交通省社会資本整備審議会の不動産部会が昨秋から検討してきた「新・不動産業ビジョン2030(仮称)」が近くまとまる。副題は「令和時代の『不動産最適活用』に向けて」となる予定だ。現在、骨子案が公表されている。約10年後の30年を見据え、業界が置かれている現状を分析した上で、将来像や官民それぞれの役割、重点的に検討すべき10の政策課題を挙げている。こうした業界の中長期的ビジョンは、過去2回策定されており、1回目はバブル景気開幕期の86年、2回目はその崩壊という激動を経て再出発期に当たる92年だ。今回が27年ぶりで、日本が地価長期下落と人口減少局面に入ってからは初めてとなる。まさにこれからの不動産業が社会でどのような役割を果たすのかを明確にしなければならないタイミングであり、時宜を得ている。

 同案を見ると、まず第1章では開発・分譲や流通、管理、賃貸、投資・運用といった業態別の現状と不動産政策の現状が整理され、第2章では不動産業を取り巻く市場環境の変化を社会情勢と不動産市場に分けて明記している。そして、最終章の第3章が、これからの不動産業ビジョン本体部分。注目したいのが、重点的に検討を要する政策課題として、国民の不動産に関する教育の必要性に触れている点と、現行制度の妥当性の検証を求めている点だ。不動産教育については、中古住宅流通やストック活用を促す上でも消費者の不動産取引に関する基礎知識は不可欠である。更に近年は、かぼちゃの馬車事件に代表される不動産投資トラブルが相次いでおり、被害を防ぐには国民が自分で適切な投資判断ができるようになることが必要であり、そのような教育機会が求められている。一方、現行制度の妥当性の検証については、今後も社会経済情勢が急速に変化し、日進月歩で技術革新が進む可能性がある中で、現行の仕組みが取引実務にそぐわなくなるケースを踏まえたものだ。常にそのような視点で制度と市場に目を配る姿勢を強調したことを評価したい。

 骨子案を見る限り、全体的に分かりやすい構成となっている。ただ、簡潔さや分かりやすい組み立てとなっている半面、踏み込み方がやや浅いのではないかと思われる箇所も散見される。例えば不動産業の将来像として「豊かな住生活を支える産業」を挙げ、その具体的内容として「良質な住宅供給を通じて快適な住環境を創造する」とあるが、少子高齢化・人口減少の急速な進展、国民の意識変化といった状況変化を想定するならば、そうした状況下における快適な住環境とは何かという点についても踏み込んだ言及があってもよいのではないか。

 これからの不動産業が時代の要請を的確に捉え、まさに「不動産の最適活用」の実現に向けた新たな一歩を踏み出す指針となることを期待したい。