総合

社説 高まる若年層の資産形成ニーズ 安心して投資できる市場確立を

 個人の不動産投資といえば、これまでは資金力のある富裕層に限られていたが、一般サラリーマンの資産形成ニーズ増加に伴い、ここにきて、手の届きやすい商品が増え始めた。投資家側の事情としては、本来、老後の生活を支えるはずの年金が、支給開始年齢の引き上げと受給額減少が懸念されるなど、特に若年層にとって将来の資金不安が大きいからだ。低金利の今、銀行に預けていても増える額はわずか。不動産の価格が右肩上がりの時代はマイホームを持つことが資産形成になったが、今ではそれも難しい。

 少子化で自宅を求める人が少なくなり、つまり実需が減少する時代となり、不動産業界としてはこの投資需要に応え、市場を拡大することが生き残り策となる。そのためには今の時代に合った若年層向けの商品開発や市場整備が求められている。

 個人の不動産投資としては、アパートを1棟単位で購入する人もいるが、ワンルームマンションの一住戸を取得し、それを賃貸して賃料収入を得るのが典型的だ。こうした中、この数年で目立ち始めたのが不動産特定共同事業法(不特法)に基づく商品だ。一人では所有することが難しい都心の高額物件であっても、1口当たり数万円という少額から投資できる。

欠かせない換金性

 若年層が投資しやすい商品であるためには、こうした少額から投資できることに加えて、換金性も重要だ。自分や家族の病気などで、急にまとまった資金が必要になる可能性もあるからだ。余裕資金で投資している富裕層とは異なり、ごく普通のサラリーマン層にとっては欠かせない条件となる。

 収益物件の買い取り再販を手掛ける武蔵コーポレーションは今秋から、一定水準を満たした物件を「リブレス」と名付け、設備や賃料の保証を付けて販売を始めた。自社で物件の質を担保して投資家の不安材料を低減することが、流通促進、投資市場拡大には必要と考えたからだという。収益物件にこうした保証を付けるのはまだ珍しいが、不動産投資に長けていない層にも投資家を広げていくためには極めて重要なポイントとなる。

 限られた資金だからこそ、失敗はしたくない。「不動産には懲りた」と思われないように、業界としては、商品の工夫に加えて、情報提供などを通して投資家を支援していく必要がある。物件オーナーになることは、管理の手間や修繕コストがかかり、空室による収入減リスクがあることも事前に伝えるべきだ。

 先の不特法事業については、この12月1日に改正法が施行され、地域不動産会社の参入を想定した小規模不特事業創設やクラウドファンディング対応などが整備されたばかり。来年は、今まで以上に個人が不動産投資の醍醐味を感じつつ、安心してチャレンジできる市場を期待したい。