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大言小語 五感を澄まそう

 料理を盛ったお皿の向きを気にして、そっと置きなおす――そんな店主がいる居酒屋は心も和らぐ。人と人の心が通い合ってこその人の世である。それなのに、最近は他人に心を寄せるということが少なくなった。家族の絆も大切だが、街ですれ違うだけの見知らぬ人も含め、他者への信頼と関心が希薄な社会は〝危ない〟気がする。

 ▼携帯電話やメールなど、人との交流手段が簡単便利になり過ぎたのだろう。五感を研ぎ澄ます習慣が日常生活から失われてしまった。そのためか、人間社会なのに、人が主役になりきれていないと感じる。人の心が覗けない狂おしさを扱った漱石のような文学作品は今でも書かれているのだろうか。政治家の言葉が口先だけの軽いものになっても、当たり前のことしか言わない評論家がテレビでもてはやされても誰も怒らなくなった。庶民はしらけるばかりである。テレビといえば、昔は佐分利信や芦田伸介が出ていると思わず引き込まれたものだが、最近の俳優にはそれがない。

 ▼インテリアコーディネーター向けのセミナーを取材した。まさに五感を研ぎ澄まさなければならない職業だ。ホテルや商業施設で活躍することは多いのだろうが、自宅のインテリアをプロに依頼するという話はあまり聞かない。人間らしい社会を取り戻すために、

住宅を〝箱〟ではなく、五感を癒すインテリアとして捉える努力をしてみよう。