政策

社説 「宅地建物取引士」へ業法改正 高い倫理観のある業界へ

 議員立法によりこのほど成立した宅地建物取引業法の改正で、1年以内に宅地建物取引主任者の名称が「宅地建物取引士」に変更されることが決まった。主任者の「士」業への格上げは、国民の資産を安全に取引するという社会的責務を担ってきた長年の実績が高く評価されたことにほかならない。加えて、中古住宅流通の市場拡大で主任者が果たすこれからの役割に期待が高まっていることの表れでもある。

 名称変更が関心を集めた一方で、士としての責務遂行を担保するために、信用失墜行為の禁止という倫理規定と知識及び能力の維持向上、従業員教育も業法改正に盛り込まれた。業界団体、宅建業者、主任者、従業員のすべての関係者に、倫理規定の順守と資質の向上、スキルの研さんという責任が課されと見るべきで、社会の期待にこれまで以上に応えていくことが求められる。その積み重ねによって不動産業の社会的信用は確実に向上し、ひいては新しい人材の流入を促すことにもなるだろう。

真摯に受け止める

 「士」への変更を後押ししてきた不動産業界の反応は、歓迎一色に染まった。同時に、専門スキルの向上、コンプライアンスの徹底といった取り組みを更に前進させなければならないという、改正の狙いを真摯(し)に受けとめる意見も多く聞かれ、大いに期待したい。

 業法改正に盛り込まれた倫理規定は、実質的に業界団体の自主規制による運用が想定される。主要な団体がこれまで会員業者に求めてきた倫理規定や倫理綱領の精度を底上げして、宅地建物取引士にもその適用を広げる、取引士ではない従業員の教育に務める義務を業界団体だけでなく法人にも持たせることで、法令順守の徹底と資質の向上を図っていくことになるだろう。

 一方、倫理規定を厳格に運営していくために、業界が自らに課さなければならない高いハードルも必要だ。ルール違反などに対する厳しいルールづくりや、団体に属さない中小業者のコンプライアンスをどう担保するのかという問題だ。業界に課せられる責任も重い。

人材面で追い風に

 「士」業への変更はまた、長年、苦労をしてきた人材確保の面で、不動産業界にとって追い風となる。社会的な位置づけが高まることで、業界を志す若い優秀な人材が増えることが予想されるからだ。人材が集まることで公平な競争が促され、不動産取引における業務品質やコンプライアンスの更なる向上が期待できる。

 高い倫理観を持ち、名実ともに社会から「士」と認められる宅地建物取引士が活躍する不動産業へ、業界を挙げて変えていかなければならない。