政策

大言小語 カウンター談義

 馴染みの店で飲んでいると「5人ですが入れますか」と入口で声がした。主人が「カウンターなら空いていますが」と応じると、返事もなく立ち去った様子。横一直線だが楽に座れるのに…。いぶかしく思い主人を見やると「若い人たちは、向き合うのが嫌みたいですよ」との答え。店の人間と向き合うという意味だが、本当にそうなのかと少し驚いた。

 ▼現代社会は人と人が直に向き合う場面が少ない。スマホの普及で、街には手元だけを見ている人があふれている。上司と部下が差しで酒を飲む〝バー文化〟もすたれた。そのためか、中高年にとって居酒屋のカウンターはどこかなつかしい。人に話し掛けたくなる風情がある。奥行きは40センチ。それよりも短いと落ち着かず長ければよそよそしい。カウンターを見れば、その居酒屋の理念が分かる。

 ▼「カウンターパート」という言葉も聞く。国際交渉などでは同じ立場や地位にある相手国の担当者を指すようだ。向き合う相手と交渉レベルを明確にしておく意味もある。そんな堅苦しいカウンターもあるが、モデルハウスでよく見かける対面式キッチンに付いている〝カフェ・カウンター〟はなかなかいい。子供が宿題をしながら母親と話をしたり、妻が夫に朝のコーヒーを出したり…。

 ▼カウンターがあるだけで家族の会話が生まれ、向き合う機会が増える。そこは家でも居酒屋でも、自分の居場所を感じる場所である。