政策

社説 逆風続く賃貸住宅市場 多様化の新たな役割担う

 全国にある空家は約800万戸あるとされ、そのうちの約半分以上を賃貸住宅が占めている。その賃貸住宅市場は長年、空室増加と緩やかな家賃の下落が続いており、賃貸空家の有効利用が政策課題としても掲げられるようになった。逆風下にあるように見える賃貸住宅市場だが、実は民間を中心とする賃貸住宅の果たすべき役割は以前にも増して高まっている。

減少続く社宅の受け皿

 民間賃貸住宅が期待されるひとつが、長年に渡って減り続けてきた企業などをはじめとする法人の社宅・寮の受け皿としての役割だ。給与住宅の割合は過去35年で半減したと言われる。この先も当面は減る方向にあると見られることからも、その代替えとして息の長い需要が見込めることは明らかだ。

 もうひとつ期待されるのは、潜在的な持ち家層の受け皿としての役割だ。いずれは親の持ち家を取得することになるため持ち家志向が低く、大きな負担を抱えずに気楽な賃貸暮らしを選択しているのが潜在的な持ち家層の特徴。特に住宅取得適齢期を迎えている若手現役世代に多くみられる傾向で、住宅を売る立場にある住宅・不動産会社ですらこうした傾向が顕著だ。また大手企業クラスのこの層になると、社宅が廃止された代わりに、手厚い賃貸住宅手当に支えられているところも大きい。

1人暮らしも多様化

 更に、学生の賃貸需要不足を招いているといわれる少子高齢化も、立ち位置を変えればシニア需要の台頭を促している。晩婚や未婚といった1人暮らしの世帯も年々増える方向にあり、新しく確立されつつある需要に対して賃貸住宅が担う役割は幅広い。

 多様化の激しい需要の中で見過ごしてはならないのが、低所得者層の受け皿としての役割だ。90年代のバブル崩壊以降、住宅市場では主に1次取得層となる賃貸ユーザーが持家市場をけん引してきた。それ自体否定されることではないが、行き過ぎた先食いが需要の先細りになるとの懸念は以前から根強い。

 これに加えて、所得の伸び悩みや頭打ちが長引くことが予想される中で、低所得者による身の丈を超えたローンの借り入れが引き起こすリスクを指摘する声もここに来て出始めている。こうした超低所得層に広がる持ち家取得の傾向を、日本版サブプライムローンと心配する向きもある。やはり賃貸暮らし適齢期の受け皿という一定の需要も底堅い。

 多様化に伴って台頭してきたこれらの傾向を踏まえると、これからの賃貸住宅の需要は減るどころかむしろ増える方向にあるといっても言い過ぎではないだろう。長引く賃貸不況の背景に少子化や景気低迷があることは事実だが、多様化する需要と市場とのかい離によるところも大きい。このミスマッチの解消に努めることが、市場活性化には不可欠だ。