総合

前田武志・国土交通大臣と政策を語る 第3回 森ビル会長・森稔氏①

「いまこそ前を向いて進もう」企画、『前田武志・国土交通大臣と政策を語る』シリーズの第3回は森ビル会長・森稔氏。テーマは「都市の防災機能と国際競争力をどう高めるか」。国際都市間競争の中で、大震災を経験した東京の防災機能の強化と、競争に打ち勝つための都市再生策などを探ります。

東京を災害からどう守るか
震災で確認できたこと

前田大臣 1つの典型例は3.11、東日本大震災で明らかになりました。森ビルなどのオフィスビルで働いていた人たちの安全は守られ、大きな混乱もなく乗り切ることができた一方で、数多くの帰宅困難者が出てしまった。その対比の中で国、自治体として、大きな災害のときどう対応するのかという問題点が幾つも持ち上がりました。

 現実には自治体単位で防災計画があり、避難場所などを指定して対応していますが、大地震に遭遇して見ると、計画通りにはいかないことが分かった。関連事業者を含めて一緒になって具体的に計画を立てる、街区防災計画的なものが必要であるということです。国土交通省としても、法改正を含めて、防災対応を強化していきたいと思います。

森会長 今回の震災で確認できたことの一番大きなものは、震度5くらいの揺れだったら通常の建築基準法で建てられた建物は破壊されない、実損はほとんどないということです。仙台では震度6でしたが、新しい建物なら毀損されないことも分かりました。我々は六本木ヒルズなどに数多くの地震計を設置していますが、それが示しているのは、揺れ方がほとんど計算通りで狂いがなく、建物の耐震性能がしっかりと確認できました。海外からきた構造の専門家もデータを見て感心して帰っていきました。

 目的に応じて耐震レベルを決めて、それに合った設計と施工をすれば、安全性は十分確保できるということですが、今後の課題は既存建物の耐震性です。古い基準で建築されたもの、経年劣化したものへの対策をどう講じるか。早く、安全なものに切り換え、東京の信頼性を高めなければならない。また、単に建物や都市基盤の安全性だけでなく、生活や事業の継続性というレベルで、計画的に高度防災都市づくりを進めていく必要があります。

災害時のエネルギー

前田大臣 震災のとき、森ビルはエネルギー対策として、何重もの防御態勢をとられていたと聞いています。私は、外部電力が途絶したり、ガス供給が止まった場合、自然エネルギーやバッテリーなどを組み合わせて、少なくとも1日分くらいの電力・エネルギーを確保しておく必要があると思います。

 これからの都市は、そうした対応ができるスマートシティに切り換えていかなければならない。東北地方でモデル都市をつくるとか、あるいは民間でも計画を立てるなら、国交省としても応援したいと思います。

 国交省は11年11月、政策全体のベクトルを「持続可能で活力ある国土・地域づくり」と決めました。言い換えると低炭素・循環型社会の実現ということです。国交省は陸海空、都市・住宅から交通・インフラ、防災まであらゆる分野にかかわる非常に大きな組織で、そこが統合力を発揮すれば「持続可能な国づくり」の責任が果たせるのではないかと。そうした観点でまとめたもので、その中に「災害に強い住宅・地域づくり」があり、耐震性能とエネルギー問題に踏み込んでいます。

 大都市では、都心にも郊外にもマンションはたくさんありますが、その中には老朽化が進んだり、耐震性能に問題のあるものなど、建て替えなければならない物件も相当あります。耐震性に問題のあるマンションは耐震改修を進める、それに合わせて断熱改修も徹底的にやろうということで政府予算を組みました。ビルも同じで、耐震性や断熱性に問題があります。

 国交省がきっちりと責任を果たすことができればエネルギー・CO2問題は解決できるのです。そのためには、都心部の危険なビルやマンションは建て替える。改修できるものは改修していく。とすると、それに関連する事業、需要のすそ野は非常に幅広く、しかもエンドレスにあり、それを推し進めることで景気回復にもつながっていきます。しかも、安全な街ができるわけですから、街全体の価値も上がります。民間ファンドが投資をしてくるし、PPPの可能性も広がってきます。

都市の更新・再生策
骨格のレベル

森会長 我が国の都市問題はいろいろありますが、大きな問題の1つは都市の構造、基盤そのものがかつての戸建て住宅を中心とした対応のままであること。別の言葉で言うと、工業化時代の「職住分離」のスタイルのままであることです。それがいまの知的産業中心の時代に合っていないだけでなく、これからのグローバルスタンダードにもほど遠い。

 昨年末に上海に行って来ましたが、改めて感じさせられたのは、都市の骨格づくりの重要性です。国際都市間競争で勝つためには、東京も全体をグローバルスタンダードに合わせてつくり直すことが必要です。これまでのように、部分的につくっては壊すの繰り返しではいい街にならないし、いい環境もできない。グランドデザインを描いた上で抜本的に取り組む必要があります。

 その意味では、総合特区法と都市再生特別措置法の延長・改正が通り、東京都などが国際戦略総合特区に指定されたことは、都市のあり方を枠組みから変えていこうというもので、大変意義深いことです。ぜひ、今までのやり方にはとらわれないというスタンスで、用途、容積をはじめ、大都市を成長抑制的な規制から開放して、大胆なパラダイム転換をして臨んでいただきたい。我々民間側もこれに則って思い切った提案をさせていただこうと思っています。

前田大臣 骨格を固めるのは当然のことです。耐震強度が低いとか、熱・エネルギー効率が悪いなどの問題を含め、単体の建物だけでなく街区全体として経年的に価値が上がる構造、そういう街づくりになっていないこと、それが問題なのです。それでは国際的な成長都市にはなり得ないのです。 (続く)