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社説 地震リスクと地価 選好性の変化に対応しているか

 先ごろ発表された都道府県地価調査で、やや気にかかる場所があった。高知県の値下がりが目立つことだ。住宅地7.8%、商業地9.3%と、ともに都道府県別で全国最大の下げ率になっている。理由は、経済の衰退や人口減少が続いていることだけではない。実は南海地震の発生が懸念されていることも値下がり要因のひとつとしてあげられている。「将来の地震発生」が、地価に反映された初めてのケースといえる。

 都道府県地価調査の価格を出すにあたっては、震災減価率を適用している。つまり震災がなければ発揮していた効用から、新たに不動産取引を行おうとする需要の減退やここに住みたい・住みたくないといった選好性の変化などを差し引いて求めている。

 

この土地は安全か

 将来の地震リスクに関して言えば、首都圏は大きな不安にさらされている。国の地震調査委員会は、今後30年以内に首都直下型地震が起こる確率を70%と予測しているが、東京大学地震研究所の酒井慎一准教授らのチームでは、東日本大震災後にプレート境界型の地震が急増していることから解析すると、今後30年以内の発生確率は98%に高まるとしている。

 これまでは最寄り駅からの距離や日常の買い物といった利便性、周辺環境などが、不動産を選ぶ際の基準の上位にあった。しかし、東日本大震災をきっかけとして、将来の地震発生が不安材料となった今、安全であることが重要なポイントに変わった。こうなると今後、首都圏でも地震リスクが地価に反映することになるのだろうか。

 不動産の経済価値を算定するうえで、震災減価率を適用するだけではどうか。将来のリスクをどう織り込むか、より合理的な説明ができるよう考え方の整理をする必要があろう。

 

はらむ地盤の瑕疵

 国や地方自治体には、地盤や震災時における火災の発生など各種のハザードマップがある。不動産の取引にかかわる関係者は、こうした情報をもっと積極的に消費者に伝えるべきである。価値が下がるとして、売主が隠しておくのは論外だ。

 土地の売買に関して昨年1月、名古屋高裁で注目される判決が出ている。購入した土地の地盤の軟弱性が隠れた瑕疵にあたるとして、売主に対する土地改良工事費用の請求が認められている。

 このケースでは、売主は分譲の際に、地盤改良が必要となる場合もあることをパンフレットに記載し、重要事項説明でも読みあげていた。しかし実際に地盤改良を要することが判明したのは、買主が契約後に地盤調査をしてからで、隠れた瑕疵にあたるとした。

 「安全」であることへの関心が日本中で高まったなかで、「地価」には、これまでにはない基準が求められている。