特集 売買仲介の「不動産DX」 中小企業は、不動産DXを導入するべきか

『顧客に伝えたい』をツールで考える

株式会社流導 代表取締役
木村 圭志

 今後、「中小の不動産会社が生き残る術」については、たくさんあると考えています。いえ、この時代こそ、中小の不動産会社だから生き残れるかもしれません。ただ、「ツールを導入したら生き残れるか」というと、単純にそうはいかない。そもそも、システムを導入したら勝手に売り上げが上がるのでしょうか。顧客管理システムで、売り上げが上がるのでしょうか。そうなら、苦労せずすべての不動産仲介会社が順調に売り上げを伸ばし続けているのではないでしょうか。


強みを生かすために活用する

 仲介で利用する一括査定サイトで、初期対応はコールセンターに外注、顧客情報は顧客管理システムに登録、査定はAI査定ツールが作成、追客メールシステムがお客様を追いかける。本当にこれで売上があがるのでしょうか。
 競合会社が同じことをしたら、また違うツールを導入することになりそうです。そもそもこれだと売主にとって、不動産会社の介在価値はどこにあるのか。もちろん、どのツールを導入するかは大切ですが、社内や自分自身に目を向けて、やりたいことは何か、過去のお客様はどこに引かれたのか、まずはこれらを考えてみる。それらを伝えたり、強みを増幅させるのに最適なツールは何か、このように考えてみるのはいかがでしょう。
​ このほか不動産会社と売主の連絡手段をチャットで利用するサービスがありますが、不動産会社から売主に送られる最初の内容が「訪問査定の日時はいつがよいですか」のみの会社があります。ほかにも多くの会社で挨拶さえもないチャットを見ます。

 

従来のやり方を忘れてはいけない

 チャットツールがあるからよい、というわけではない事例です。
 お客様から返信がくる会社は、送る内容が考えられている。しっかり会社紹介(得意な物件やエリア、売却戦略に対する考えなど)、自己紹介、強みなどが記載されており、そこから訪問日程の提案をしています。どのツールがよいか悪いかよりも大切なものがあると、この事例からも感じられます。

 

やらないことからツール活用を考える

 今後は同様のツールを導入する会社が増えてくるでしょう。集客提案方法など、同じようになると思います。でも考えてみてください。あなたが40代だとして、肩こりがひどい。そんな時に「20代~70代まで頭痛肩こり腰痛なんでもお任せ!」の整骨院と、「40代の事務仕事で疲れた人の肩こり専門」の整骨院、どちらに行くでしょうか。言うまでもなく後者だと思います。
 これは大手にはなかなか出来ないことです。中小だから出来ること。全部のお客様に対応する必要がない、いえ対応出来ない。売主にとって不動産会社を選ぶときの気持ちもある種、同じではないでしょうか。機会が少ないからこそ、より自分の物件や考えに合っている会社に依頼をしたいという想いが強いかもしれません。
 得意分野だけではなく、社長や営業さんが信頼できそう、ということも選ばれる一つの理由だと思います。もしも、何をするかを決めるのが難しければ、やらないことをまず決めるのもひとつでしょう。どのツールがよいかなどに目がいくと、これらのことを忘れそうになります。
 ただ、個人的には、LINE、Googleスプレッドシートなどは簡単に導入できて便利になるので、ぜひ導入していただきたい。追客ツールもお客様と定期的な接点をもつという点では、何度も嫌がられる電話をかけるよりは良いかもしれません。
 ただ、これらを導入しても、すぐに売り上げが上がることはないということにお気づきだと思います。追客もすればよいというわけでなく、お客様は何を求めていて、こちらが何を伝えたいのか、そうしたことを考え、伝えたいことはあるが、それを人力で定期的に行うのが難しいからツールを導入する。そういった順序がツールを検討するうえでよいのかもしれません。

 

プロフィール:
木村 圭志 

不動産売買仲介未経験で大阪にて不動産売買仲介会社を起業し、飛び込み営業や勉強会を開催しながら、SNSやブログ活用による独自の営業マーケティンスタイルを構築。その後、起業の経験をもとに不動産テック企業イクラ(株)にCOOとして入社し、約1年で取引先不動産会社を250店舗から2,000店舗に増加させる。22年4月より不動産会社のコンサルティング、売主集客専門のWEB制作・広告運用にて活動中。