住まいと暮らし

ポスト原発の新エネルギー 開発進む② 注目されている新エネルギー

■用水路、温泉から発電

中小水力発電

 水力発電が注目を集めている。水力発電は豊かな水系と急峻な地形を利用した日本の代表的な再生可能エネルギーだ。ただ八ツ場ダムの事例をみるまでもなく、水力発電の導入には大きなコストと時間がかかる。ここで注目されているのは、渓流や小河川、排水路などの落差を利用した3万キロワット以下、平均出力4500キロワット以下の小規模な「中小水力発電」を指す。すでに電気機械メーカーが中小水力発電向けの発電機を開発しており、条件が最も小さいものでは、川幅1.5m、水深0.6m、流速秒1mで1キロワットの出力が可能だ。開発された感のある水力発電だが、資源エネルギー庁のデータによれば、この中小水力発電をあてはめていくと、国内にはまだ1200万キロワットの発電能力が残っているとされる。

地熱発電/温泉発電

 地熱発電は、地下でマグマによって熱せられた高温高圧の熱水が溜まる火山鉱床から、高温の熱水や蒸気を取り出して発電する仕組み。日本が火山国でもあることから早くから注目を集めてきた。1925年には大分県で日本初の地熱発電所が稼働しているが現在国内では18カ所止まり。コスト的に他の電源に叶わなかったり、候補地が国立公園内にあることが多く、また温泉組合などとの調整があるため、手控えられてきた。しかしここにきて原油価格の高騰などから、新規開発に取り組む例も出てきている。

 また温泉地の温泉を利用した「温泉発電」の開発も検討され出してる。環境省は今年国立・国定公園などの地熱利用についての規制を緩和する方針を打ち出したが、これに伴って温泉地域での温泉発電の事業化が進めやすくなった。すでに湧き出る温泉を利用するため、周囲への影響は少なく、先行事例が増えれば、一気に広がる可能性はある。環境省はまた発電装置の半額補助も打ち出している。

国別地熱資源量
国名 活火山数(個) 地熱資源量(MW)
インドネシア 150 27,791
アメリカ 133 23,000
日本 100 20,540
フィリピン 53 6,000
メキシコ 35 6,000
アイスランド 33 5,800
ニュージーランド 19 3,650
イタリア 14 3,267

出典:「地熱の開発可能性」(2008、地熱発電に関する研究会第1回資料、産業技術総合研究所)

■広がる海洋エネルギー利用

波力発電/海洋温度差発電/海流・潮流発電/潮汐力発電

 日本は世界有数の経済水域を持つ海洋国である。近年、海底油田開発など日本は海洋資源の積極的利用を進めているが、洋上の波や海流や季節、深度によって生じる温度差なども貴重なエネルギー資源となる。

 「波力発電」は波の上下によって起こる空気の気流を発電機に送り込んで電気を起こす仕組み。ブイなどのようにシステム全体を洋上に浮かせるタイプと、海底などに固定するタイプがある。発電力は波高1mにつき約6〜7キロワットと大きくはないものの、太陽電池とセットにした航路標識ブイなどとして実用化されている。

 「海洋温度差発電」は、海表面と深海水の温度差を利用し発電する仕組みで、暖かい表面の海水をアンモニアなどを利用して蒸発させて発電機を回し、深海から汲み上げた冷水で蒸気を液化させることを繰り返す。

 佐賀大学などが中心となって進めてきたが、現在インド政府と佐賀大学によるインド洋での実証実験が行われている。インド政府の試算では、1万キロワット規模であれば、1キロワット10円も達成可能だという。

 海にはまた潮流や海流という流れるエネルギーがある。「海流・潮流発電」はこの潮流海流の運動エネルギーで発電する。原理は中小水力発電と同じで、潮の流れによって水車を回転させて発電する。

 同様に潮の満ち引きの差を利用して発電するのが「潮汐力発電」。これには潮の流れを利用する方法と、潮汐力によって生まれる位置エネルギーを利用する。潮位差の大きい河口や湾の入り口に人工的な貯水池をつくり、ダムのようにそこから海水を落として発電する方式。日本ではあまり潮位差が出るところが少なく、潮汐力発電には向いていないが、海外では潮位差が10m以上あるところがあり、開発が進んでいる。

(写真1)波力発電(波浪エネルギーの吸収装置・竹中工務店ホームページより)

■自然の熱をそのまま利用

 自然エネルギーは必ずしも電力に変換して利用する必要はない。熱をそのまま利用できるなら、そのまま利用のほうがエネルギー効率はいい。
たとえば次のような雪や地中熱の利用だ。

 

雪氷熱利用

 今年の大雪は北国の人々の生活を苦しめたが、この雪を有効利用しようという取り組みはかねてより進んでいる。
 新潟県や北海道では、冬に降った雪を家や集合住宅に設けられた専用の雪室に貯め、この融解熱で夏場の冷房に利用する雪氷冷熱冷房住宅やマンションがじわじわと普及している。

 北海道美唄市の「ウエストパレス」世界初の雪冷房マンション。冬の間駐車場に積もった排雪を貯め込み、夏、保存した雪を強制的に融解させ、全室に設置された風量調整装置付きのファンコイル型ユニットから熱交換器を介して、冷風を提供する。このシステムによりシーズン中の冷房費はエアコンの3分の1程度にまで落とせたという。日本は総面積の52%が降雪地帯。そこに毎年500億から900億トンの雪が降る。室蘭工業大学の媚山正良教授によれば、この雪が利用できれば約50万キロリットルの原油がセーブできるという。

(写真2)雪冷房を取り入れた「ウェストパレス」(北海道美唄市)

(写真3)冬に積もった排雪を貯めておく雪室(貯蔵庫)。これを夏場に融解させて、各室に冷風を供給する

■身近なエナジーステーション「清掃工場」

廃棄物発電/廃棄物熱利用

 意外なようだが廃棄物を利用した発電も新エネルギーの一つだ。日本には廃棄物を焼却した熱で発電する施設が約300あり、159万キロワットの発電容量を有している。年間の総発電量は約71億キロワット/hとなり、これはおよそ195万世帯の電力を賄う計算だ。近年清掃施設の建て替え需要に伴い、発電設備の導入が増えると予想される。現在廃棄物発電の年発電効率は10%ほどだが、これを25%にまで引き上げ、さらにすべての24時間稼働工場で発電が可能となれば、500万キロワット以上の電力が得られとの試算がある(社団法人化学工業会)。
 一方ごみ焼却の排熱を利用した地域の給湯や冷暖房システムも広がっている。排熱利用では温水プールなどを併設したスポーツ施設などは多いが、都市部では周辺一帯の住宅や商業施設、学校に専用配管を通じて熱を提供している地域がある。千葉県の千葉ニュータウン、札幌市の真駒内、東京の光が丘団地、大阪の森之宮などはその例として知られている。

 スウェーデンやデンマークなどでは、ごみ焼却熱や工場排熱を地域に熱供給することは当然とされている。今後は日本においても清掃工場もエネルギー供給施設だという発想で見れば、迷惑施設という認識は変わり、高効率なエネルギーインフラが各地に展開されるだろう。

 一口に再生可能エネルギー、新エネルギーと言っても多様であり、一長一短がある。その実用化、普及までのスケジュールもさまざまであり、目的や地域性によっても変わってくる。何かの代わりに1つのエネルギー源を採用するというのではなく、市場性や技術レベルを考慮しながらその特性を把握し、いくつかのエネルギーを組み合わせ、省エネ、環境負荷の逓減に結びつけていきたい。