社説「住宅新報の提言」

スタートした長期優良住宅認定

新たな運気で市場変革を

 長期優良住宅普及促進法が6月4日施行された。住宅の長寿命化を図るため、住宅を長期に良好な状態で使用するための措置などを講じた長期優良住宅を認定するのが主な柱だ。同日、全国の行政庁でその認定申請受付が始まった。
 ところで、同制度に対する住宅・不動産業界の検討はまだ始まったばかりだ。もともと同法は、前首相の福田康夫氏が自民党の住宅土地調査会長だった07年5月に掲げた「200年住宅ビジョン」が土台となっている。翌年の08年11月28日に参議院で可決・成立し、翌12月に公布された。
 住宅不況まっただ中でのスタートとなったことは、同法にとっては悲運としか言いようがないが、当初から業界内には「唐突」との評価があったことも否めない。かつて建設省(現国交省)が制度化した「センチュリーハウジングシステム」(100年住宅構想)も国民に浸透するまでには至らなかったことが意識の隅にある。

生活支える住まい

 しかし、ここ数年日本社会を取り巻く環境は大きく変化し、住生活に対する国民の関心は以前にも増して強まっているのではないだろうか。年金問題に象徴される政治不信と老後不安。景気の悪化に伴う失業・雇用問題、更に、若年世代(子供世帯)の所得格差など、いずれも将来不安を深刻化させるに十分な材料ばかりだ。
 今こそ、足元を見直すときである。住宅は生活の基盤であると共に、家計的には個人資産の6割以上を占めるといわれる。その住宅の経済価値を、国民生活に還流させる政策こそが急務である。
 周知のように、我が国の戸建て住宅はたとえ昨日まで住んでいたとしても、市場に売りに出すと築20年を超えていれば価値はゼロとなる。帰属家賃としてGDPに約10%もカウントされている持ち家の価値をゼロとして扱うことは、統計上の経済大国と国民の実感とをますます乖離(かいり)させていくことになるだろう。
 今後、長期優良住宅認定を受けた物件が市場に出回り始めるのは5、6年先となる。遅くともそれまでには既存住宅市場の整備と改革を進めなければならない。優良認定の物件が市場で優遇されるような評価システムが整備されなければ、同制度の普及はおぼつかないだろう。住宅履歴やインスペクションといった一連の市場整備をまず軌道に乗せることが大事だ。そうすれば、一般の既存住宅でも良質さが担保されることで、資産価値が維持されていくという仕組みが確立されるだろう。

住宅と土地の主従逆転

 日本人の住み替え回数が少ないのは、「住めば都」という国民性もあるかもしれないが、資産価値が落ちてしまって手持ち物件が買い替えの資金足りえないという事情もある。欧米に比べるとリバースモーゲージの普及が進まない要因もそこにある。
 長期優良住宅法の施行を機に、業界に新たな機運が盛り上がり、我が国の住宅価値に変革をもたらすことを期待したい。「住宅が主で、土地はその付属物」という発想こそ求められているのではないだろうか。そうしなければ今後も、国民はローンの返済期間が終わらないうちに価値が消えてしまうという不確かな資産としてしか、生活の安定基盤としての住まいを持つことができない。