社説「住宅新報の提言」

電柱地中化の意味

「防災」「景観」そして「環境」へ 
 95年1月に発生した阪神淡路大震災では、倒壊した電柱が道路をふさぎ、垂れ下がった電線が火災を発生させ被害を拡大させた。もし電柱がなかったならば、被害はもっと小さくて済んだであろう。実際、地中に埋設した電線は、架空電線の80分の1の被災率というデータもある。防災の日を前にして、電線類を地中に埋設する「無電柱化」にフォーカスする。

無電柱化は23区で7%

 現在、我が国には約3300万本の電柱があると言われている。これが多いのか少ないのか、実は比較するデータは見られない。無電柱化の実体を世界の中で比べると、ロンドン、パリ、ボンは既に30年前の調査で100%を達成している。ちなみにニューヨークは72%だ。
 国内では東京23区は幹線道路で42%を達成しているが、23区全体となるとわずか7%でしかない。いかに立ち遅れているかが分かる。
 我が国で最も早く無電柱化を実現させたのは、芦屋市の六麓荘で、1928年のことである。その後、住宅地では横浜の汐見台団地、大阪府交野市のコモンシティ星田、商業地では東京・新宿区の神楽坂、世田谷区の桜新町商店街など、国土交通省によると、これまでに約7700kmが実施されている。
 当地へ行けば一目瞭然である。電線がないと、こんなにも空が広いものかと実感させられる。この体感こそが大事で、他の町と比べることをお勧めする。
 無電柱化は景観がすっきりするだけではない。むしろ冒頭に記したように災害時における安全性の向上や、見通しが良くなることによる交通安全性の向上などハード面でのメリットが強調されてきた。ただ景観や環境といった側面は二次的とされてきた感が否めない。

資産価値は7%プラス

 無電柱化がこれまで目を見張るほどには進捗(しんちょく)してこなかった理由として、経済合理性から採算が合わないと考えられてきたからだと言われるが、果たしてそうであろうか。
 不動産鑑定士が大阪・星田地区を対象に査定したところ、電線類の地中化は、土地価格に対しておおむね7%程度のプラスの影響を与えるという結果が出ている。算定手法によっては4~9%のプラス効果となっている。これを誤差の範囲と言い切れるだろうか。もしそうでないとするならば、全国約7700kmの実施済みの周辺は7%程度地価が上昇する可能性が出てくる。
 またディベロッパーの事業採算性においても分譲総額が高くなるが、それでも購入意欲をそぐことはないといった費用対効果にも好影響を与えていることが、消費者のアンケート調査から確認されている。つまりは、同じ住宅地でも電線が地中化されているかどうかは、本来、地価に影響を与え、資産価値を上げるものである。
 しかしながら無電柱化を、正面から評価する現状にはいまだ至っていない。景観を正しく評価できる度量衡があってもいい。