社説「住宅新報の提言」

新年の課題

フローの発送抜け出す時

 政府の「新成長戦略」(09年12月30日閣議決定)を読んで、歯がゆい思いをした業界関係者も多かったのではないか。「輝きのある日本へ」という副題が付けられたその中身を構成する6つの成長分野((1)エネルギー(2)健康(3)アジア経済(4)観光・地域活性化(5)科学・技術(6)雇用・人材)に「住宅」が掲げられなかったからである。
 (2)の健康大国戦略の1項目としてバリアフリー住宅の供給促進、(4)の地域活性化戦略の中に中古住宅市場の活性化などが盛り込まれるにとどまった。

問題は資産価値維持
自公政権時代には内需拡大の柱として定番になっていた住宅の重要度は、「観光」よりも低くなってしまったのだろうか。
 少子高齢化、核家族世帯の減少で住宅産業はいまや斜陽産業になったと指摘するのはたやすい。国民の大半が既に満足できる住宅と住環境を手に入れているのであれば、そのような指摘を受け入れたとしてもさしたる問題は生じないだろう。しかし、実態はそうなっていないことが重要だ。
 特に、住宅は国民にとって重要な資産であるにもかかわらず、その資産価値維持のための工夫がほとんどなされていないことを指摘したい。
 中古住宅市場の活性化は地域活性化策の1分野として扱われるような軽いものではない。そもそも住宅問題の本質は瞬間としてのフローではなく、ストック(中古)にある。今こそ政府は、住宅政策の要を本来の中古市場活性化対策にシフトさせ、ストックの資産価値増大による内需拡大策を打ち出すべき時である。
 業界も従来のフロー重視の発想では、もはや住宅を内需拡大の柱に位置付けることが難しくなっていることを肝に銘じるべきだろう。

金融危機に学ぶもの
 サブプライムローン問題を契機とする金融危機で、Jリートなど我が国の不動産投資市場は大きな打撃を受けた。21世紀になって本格的に創設され、その後はほぼ順調に拡大を続けてきた不動産投資市場が最初に迎えた試練の時である。
昨年暮れに打ち出されたJリート市場に対する政策などが効果を発揮し小康状態を得ている今、どうやって金融危機の影響から抜け出すかが大きな課題となっている。
 おそらくは、金融と不動産との真の融合(不動産リスクに対する認識の一致など)をどう果たすか、そして資金調達リスクの回避など今回の経験をうまく生かせるかどうかが大きなポイントになるであろう。

成長戦略に積極参加
 オフィスビル市況の行方も不動産業界としては気になるところだが、企業業績に大きく左右される市場だけに、日本経済全体の問題でもある。その意味では、冒頭に掲げた民主党新政権による新成長戦略の実行と効果に期待するところ大である。
 新戦略は2020年までに環境、健康、観光の3分野で100兆円超の新たな需要を創造するとしている。住宅・不動産業界としてはこの3分野でどう貢献できるのかを考え、事業化を検討することも、業界の活性化につながるはずである。

地域を愛する人材に
 最後に、中小不動産業界の課題について触れたい。大手と中小との分かりやすい違いは商圏の大きさだろう。中小から零細になるほど扱う物件の範囲は狭くなり、その分地域との密着度が勝負になる。ネットで広域から集客することはできても、成約への決め手はいかに地域物件に精通しているかということである。
 地域の物件に精通することで地域に愛着を抱き、地域の再生や活性化にやりがいを感じる若い人材の育成こそ、中小不動産業界の大きな課題である。