社説「住宅新報の提言」

楽しみな「中古市場の倍増」

■新成長戦略を評価

 政府の新成長戦略(6月18日閣議決定)が発表された。7つの戦略分野の内の1つ「観光立国・地域活性化戦略」の中で、<ストック重視の住宅政策への転換>が盛り込まれた。
 「これまでの新築重視の住宅政策からストック重視の住宅政策への転換を促進する」ことが明確に宣言されたことは、戦後の住宅政策史上最も注目すべき、そして歓迎すべき政策変更となるだろう。なぜなら、これまでのように「住宅を作っては壊す社会」の継続は、我が国の経済社会を一段と疲弊させる結果を招きかねないからである。

 いわゆるスクラップ&ビルド型のビジネスモデルは、人口が増大し経済が拡大している社会でこそ通用する。日本は間もなく、超高齢社会に突入する。限られた労働力資源で豊かな社会生活を実現させていくためには、これまでに蓄えた資産の有効活用が欠かせない。新戦略が「1000兆円の住宅・土地など実物資産の有効利用を図る必要がある」としているのはそのためである。
 具体的には「建物検査・保証、住宅履歴情報の普及促進などの市場環境整備・規制改革、老朽化マンションの再生などを盛り込んだ中古・リフォーム市場整備のためのトータルプランを策定する」としている。

 中古住宅取引活性化のためには、「消費者が安心して適切なリフォームを行える市場環境の整備」が必要なことは論を待たない。そのためには価格の透明化や定額制の導入などによる顧客の信頼確保が重要だ。ただ、我が国のリフォーム市場が国民生活に確固たる根を張るためには、住まいをリフォームすることを文化としてとらえる感性を醸成していくことも重要だと思う。
 最近は子育てを終え、夫婦2人だけの生活に戻ってしまったリタイア世代が子供部屋のあった2階を取り壊し、明るく日当たりのいい平屋にするなどの?減築リフォーム?も増えてきていると聞く。思い出のいっぱい詰まった我が家を改築することは、自分の体に自らメスを入れることにも似ている。それでも、夫婦2人が最期までそこで生きていく、という覚悟を示すリフォームもあるということだ。

 一方、新築住宅については「良いものを作って、きちんと手入れして、長く大切に使う」という観点から質の高い住宅供給を図る。具体的には省エネ・耐震・バリアフリー性などに優れた長期優良住宅の供給を促進していく。
 新戦略は日本の復活に向けた21の国家プロジェクトを掲げているが、「中古住宅・リフォーム市場の倍増等」がその1つである。現在、それぞれ4兆円、6兆円規模の市場を2020年までに2倍の合計20兆円市場にする計画だ。今から10年後には、知人が住宅を買ったと聞けば、どんなリフォームをしたのかと想像するのが当たり前の社会になっているかもしれない。それもまた楽しみだ。