社説「住宅新報の提言」

都道府県地価調査 下落を楽観してはならない

 地価の値下がりが続いている。国土交通省が発表した今年7月1日時点の都道府県地価調査によると、1年前に比べ全国平均で住宅地が3.4%下落、商業地は4.6%下落した。下落幅では昨年より縮小したものの、住宅地・商業地の平均地価変動率は47都道府県すべてでマイナスになっている。
 調査結果に対して、下落幅が縮小したことを歓迎する声が多くある。しかし、値下がりが続いていることに変わりはない。調査地点の98.5%は下がったのである。ましてやデフレ経済下で、数カ所の上昇地点があっても下げ止まり感はない。
 また、東京都心のオフィスビルの空室率は9%を超えているが、来年以降、新築オフィスビルは、大量の完成を控えている。景気が停滞していれば、賃料はさらに下がり、地価にも悪影響を及ぼす懸念がある。
 日銀が9月29日に発表した企業短期経済観測調査(短観)を見ると、大企業・製造業の景況感を表す業況判断指数が6期連続でプラスになった。ただし、これから先の見通しとなると、製造業、非製造業とも7四半期ぶりに悪化している。製造業は9ポイント悪化のマイナス1、非製造業は4ポイント悪化のマイナス2で、景気の先行き不透明感が強まっていることを示唆している。

厳しい状況認識を

 シグナルは出ている。ここで私たちは、地価の下げ止まり感を了としているだけではいけない。冷静に考えてみれば分かる。人口減少が確定している中で、空き家が増え続けることもはっきりしている。
 新設住宅着工戸数は昨年は78万8000戸に激減し、今年は若干の回復は望めるとしても、長期予測としては80万戸台が続き、その後は70万戸台への逓減が見込まれている。100万戸への回復はかなり厳しいだろう。その中で、単純に地価の再上昇を待ち望んでいればいいというものでもない。

「成熟」戦略に軸足

 地価が経済力の反映であることは間違いない。だから、海外からの不動産投資に期待することには理があるが、その規模は一時ほどの勢いはなく、円高も投資意欲に冷や水を浴びせている。
 国は経済対策として、環境に配慮した都市再開発には、容積率を緩和する方針を打ち出している。しかし需要が低迷しているのに、単にスペースだけを増やすのでは賃料や地価は下がるばかりだろう。
 何も新築だけに目を向けることはないのだ。消費者はすでに、そういう変化を見せている。中古やリフォーム市場は、整備を強力に進める必要がある。「成長」ではなく、「成熟」に早期に軸足を移していくべきだ。これは新たな経済成長の道筋を模索する戦略である。