社説「住宅新報の提言」

信頼獲得へまず行動を めやす賃料がスタート

 日本賃貸住宅管理協会(三好修会長)が賃貸住宅の紛争を防止する目的で準備を進めてきた「めやす賃料表示」制度が10月5日始まった。当初の導入企業はサブリース会社を含む会員16社。管理戸数にして約100万物件の規模でスタートを切った。今後、準備中の会員をはじめ会員以外にも導入を積極的に働きかけており、引き続き導入企業の拡大が見込まれる。
 「めやす賃料」は、賃貸住宅の入居者募集や申し込み時における一時金を含む賃料等の表示を全国的に統一する同協会独自の試み。全国各地の商習慣などの違いに起因する賃貸住宅に係るトラブルを未然に防止することを目的に、関係する行政機関にも意見を仰ぎながら、あくまでも一般消費者と賃貸実務の現場の視線から1年をかけて策定したという。

■初の試みに注目集まる

 制度スタートにあたってはリクルートやヤフー、ネクストなどが運営する主要不動産ポータルサイトでの展開も想定。各社のサイトや情報誌でも「めやす賃料表示」が今後広まっていくことになる。特に年末にも本格化する春の賃貸シーズンで、一般消費者や身内の不動産業界からどのような評価を受けるのか、業界初の試みだけに注目されるところだ。
 同制度の仕組みは、賃料改定がないと仮定して4年間賃借した場合の賃料、共益費・管理費、敷引金、礼金、更新料の合計を1カ月当たりの金額を「めやす賃料」とし、募集チラシや物件情報誌、ウェブ広告などに実質賃料と併記する。定期借家契約の物件については、契約期間が算定対象となる。
 三好会長は6月の記者説明会で、「貸主と借主の関係において、仲介会社や管理会社が賃料条件について消費者の納得を得られる説明がなされているかが問われている。借主が賃料条件を納得した上で契約を結ぶようにすることが、賃貸トラブルを未然に防ぐ上で何よりも重要だ」と語り、制度の目指す方向を示した。

■混沌とした賃貸市場

 空室の増加や賃料下落が長引く賃貸市場では昨今、更新料の有無や礼金の有無、フリーレントやゼロゼロ物件と実に様々な条件の賃貸物件があふれている。AD物件と呼ばれる広告費付の物件なども登場し、不動産業者ですら取り扱いに迷うケースも散見される。
 賃貸条件は地域性によって異なるばかりでなく、オーナーの個別事情や契約のタイミングによっても異なることがある。賃貸市場が混沌としている時だけに、透明性の高い制度の登場は歓迎されるべきだ。
 しかし、ひとたびハイシーズンともなれば、1000円単位で熾烈な賃料競争が繰り広げられる厳しい市場で、たとえば実質賃料よりも高くなる「めやす賃料」を表示することに抵抗を感じる業者も多いだろう。更新料や礼金といった賃貸借契約での位置付けが不明確な費用をむしろ撤廃することを主張する業者すらいる。いずれにしても賃貸市場の方向性を決めるのは他ならぬ不動産業界だ。賃貸トラブルが多発する中、消費者の信頼を得る行動を起こすことが重要だ。