社説「住宅新報の提言」

存在感増す賃貸住宅 今こそ変革の好機

 東日本大震災後、賃貸住宅(市場)の存在感が増している。仮設住宅の建設が用地不足で遅れる中、民間賃貸住宅を自治体が借り上げ被災者に無償で貸し出す制度が注目を集めているからだ。また、個人や賃貸住宅経営者(大家)らによる被災者支援のプラットホーム「仮住まいの輪」も実績を広げつつある。
 「仮住まいの輪」は個人宅の間貸し、大家から提供される空き物件、企業の社宅や独身寮などの物件が登録され、当面3カ月間は無償で利用できるというもの。既に全国から250以上の物件が集まっている。
 自治体による借り上げも、善意の賃貸住宅経営者らによる物件提供も、市場に積み上がっていた空室が思わぬところで役立った格好だが、賃貸という居住形態の利点を改めて認識させた面も強い。確かに、都市部などでは中古マンションに対する需要も急増しているようだが、そうした所有権付き住宅を購入できるのは所得に恵まれた層で限定的だ。
 賃貸であれば、たとえ有償であっても経済的負担は軽く、入居手続きも簡便である。無償期間も3カ月とか、自治体の借り上げ制度のように2年間とか柔軟に設定することができ応用も効く。

即応性と多様性備えよ

 当然だが、賃貸住宅が持つこうした利点は実は天災とは無関係だ。もともと賃貸と持家市場はそれぞれの特質を生かし、需給を補完し合う関係にある。賃貸住宅の最大の役割は、大きな経済的負担を強いることなく人生の各ステージに応じた住まいの取得を可能にすることである。従って、賃貸住宅市場は常に、即応性(手続きの簡便性)と共に、物件タイプの多様性を備えていなければならない。 しかし、我が国の賃貸住宅市場は残念ながらそのどちらも満たしていないのが実態ではないか。入居一時金も決して低くはないし(賃料の4~5カ月分か)、毎月の賃料も〝ローン返済並み〟である。また、市場にはワンルームなど単身者向けが大半で、家族4人が住めるようなファミリータイプは極端に少ない。趣味を楽しめるような個性的物件は更に少ない。
 現在、賃貸住宅市場は空室が積み上がり、賃料が下落し続けている。そうした閉塞状況を打開するためには、即応性と多様性という賃貸が本来備えるべき特質を具備するしかない。まさに賃貸住宅経営の革命が必要である。その核心は良質で長寿命の建物と、顧客(住まい手)本位のサービス(管理)を提供することにある。
 今は我が国の賃貸住宅市場が変革を遂げる好機である。大震災は社会資本としての賃貸住宅の重要性を再認識させた。今年度には、国土交通省の賃貸住宅管理業者登録制度がスタートする。また、国交省と厚労省が共管するサービス付き高齢者向け(賃貸)住宅も創設される。作っては壊す新築偏重主義を改め、新規供給は質・環境共に持家に劣らない、長期に収益性を保つことができる良質な賃貸住宅に絞り込んでいくことが肝要だ。