不動産マーケットは、経済の成長と成熟度にリンクする。投資適格物件の市場規模は日本が米国に次ぐ大きさを誇るが、マクロとミクロの2つの側面から日本の投資マーケットにフォローの風が吹いている。人口減少が進む中にあってもグローバルな不動産投資家からは成長戦略先として認識されている。その要因の一つとして地政学リスクが挙げられよう。ロシアによるウクライナ侵攻に終息の兆しはなく、2027年にも中国が台湾に侵攻するのでは、という中台問題も相まって安全性・安定性から日本にリスクマネーを振り向けているというものだ。
次ぎに挙げられるフォロー要因は金利環境である。日銀の金融政策の変更により、金利が上がりつつあるとはいえ、世界主要国と比べれば低い水準で、米国との金利差は未だ4%ほどの開きがある。低金利は不動産投資家にとって大歓迎の要素である。半面、都心部の不動産価格は高水準であるため、調達金利の低い日本で高いレバレッジをかけて投資する。つまり、自己資金を抑えて金融機関から多くの資金を借り入れて投資する。これでは一般的に取引価格が下がらない。これによって、少しでも高い利回りを確保したい投資家は、学生寮など郊外のオルタナティブ(代替)資産に資金を投じる動きも見られ、結果的に郊外の取引価格も切り上がっていく。
日本企業のガバナンス改革が進んだことも投資資金を誘引する。企業が資本・業務の効率を市場から迫られているためで、これを背景に特にキャピタルの効率化という意味から日本の不動産に焦点が当たっており、半導体やデータセンターといった世界的な戦略施設などが日本に再投資されている。
不動産サービスのJLLによれば、24年の日本の商業用不動産への投資額は9年ぶりに5兆円超えを記録した。それを今年は上回ると予想されている。外資では賃貸住宅数棟を一括で買い上げるバルク案件の復活が見られ、訪日客増で商業施設やホテルの注目も高い。商業施設は利回りの高い郊外で地域密着型のスーパーやドラッグストアの取引がおう盛だ。
ただ、世界中に景気後退懸念が急速に芽吹き始めた。米国の通商政策がリスクマネーの流れを滞らせないかに注意を払う必要がある。トランプ大統領が4月に発動した相互関税で中国は一歩も引かず、米中対立が貿易戦争として激しさが増している。世界同時不況ともなれば、不動産投資に流れるお金が限定的になっていく公算が大きい。
最大のリスクは米トランプ政策の予測可能性が低いことが挙げられ、米通商政策に対する視界不良が晴れなければ、ネガティブな見方が過剰に織り込まれて悲劇を呼び込むだろう。住宅・不動産業界としては、相互関税で直接的な影響はないとみられるが、その波及経路に目を凝らして分析しておくことが肝要であろう。