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酒場遺産 ▶34 アメ横 「夜行列車」 「北の玄関口」に日本酒ずらり

 アメ横はJR山手線の上野駅と御徒町駅の高架下とその西側に南北約600メートルの範囲に広がる飲食・商店街である。正式名称はアメ横商店街連合会。約400店がぎっしりと立ち並ぶ。高架下にも小さな店が集積している様は、ここが日本であることを忘れさせる。そして最近、コロナ禍明けのアメ横は、再び外国人観光客や若い人たち(女性が多い)で賑わい、ますます多国籍化・多民族化している。立飲み屋や路上のテーブル席では、みな昼間から普通に酒を飲んでいる。中でも多くの人を集めているのがガード下の通り沿いにある「大統領」「たきおか」「カドクラ」といった店で、高架を走る電車の騒音と路上に溢れる酔客の声で騒がしい。

 「夜行列車」はそんなエリアのど真ん中にあるが、間口が狭いため店の存在に気づく人も少ない。暖簾をくぐると静かな別世界が広がっている。奥へ細長いカウンター席だけの空間で一人客中心だ。変った店名と思い店主に訊けば、元々の「夜行列車」は1957年創業の夜行列車を利用する客に酒を出す洋酒バーだったが、23年前の2000年に日本酒酒場に変わったが、屋号をそのまま引き継いだという。店内には日本酒がずらりと並び、何度も張り替えた跡のある日本酒の価格表が、経た時間の厚みを感じさせる。あまり聞いたことのない酒も多いが、新潟・山形・栃木・福島・宮城・岩手などの酒が多いのは「北の玄関口」上野からだろうか。「夜行列車特製酒場メニュー」は、熊本直送の馬刺し、きびなご一夜干し、鮭の燻製、さつま揚げ、あたりめ、うるめ鰯、フグ皮ポン酢など「酒のあて」ばかりだ。馬刺しは最高に美味かった。喧騒のアメ横のエアポケット「夜行列車」、遥か北へと郷愁が掻き立てられる。 (似内志朗)