総合

彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇115 中小不動産会社の戦略 空き家対策は突破口 今こそ創意工夫を

 今、地元に根を張る中小不動産会社の関心は「空き家」に注がれている。リアルパートナーの今年1月号で国土交通省不動産業課長の川合紀子氏と対談した全宅連会長の坂本久氏はこう語っている。

 「14年に策定したハトマークグループビジョンでは今後我々が目指すべき理想像として〝地域に寄り添う生活サポートのパートナー〟になることを掲げていますが、その具体的な取り組みの一つとして地域の大きな悩みになりつつあった空き家問題の解決にフォーカスを当てました」

 そして今後の方針としてはこうも述べる。「宅建士は空き家対策の中心プレーヤーであり、そのための研鑽を怠らないということを業界として社会に宣言することが非常に重要です」と。空き家は除却にしても利活用にしてもその対応が難しい。しかし、その難しい空き家対策に取り組んでこそ、「新たなビジネスモデルや創意工夫が生まれる契機になる」という坂本会長の言葉はまさに空き家を突破口に今こそに新たな視点で活路を拓いてもらいたいという激励ではないか。中小不動産業がどこへ向かうべきかといえば、やはり地域に貢献することが基本になると思われるからだ。

活動再開

 NPO法人群馬県不動産コンサルティング協会(高平建一理事長)は2月14日、伊香保の岸権旅館でセミナーを開き、コロナ収束後の活動を再開した。「もうそこまで来ている宅建士革命」という演題で筆者が講演させていただいたが、「空き家問題」への関心は想像以上の高さだった。 特に質疑応答では昨年12月に施行された改正空き家特措法の眼玉となっている「空き家等管理活用支援法人」について活発な議論が展開された。空き家対策ほど自治体と地元不動産業者との連携が求められるものはほかにない。改正空き家法の精神も地域の活性化や地元経済発展の拠点にすることを空き家活用の目的としている。その意味では日頃から幅広い見地で不動産活用のコンサルティングを行っている団体への期待は大きい。

 もうひとつ、同協会が高い関心を寄せているのが「成年後見制度」である。群馬県の高齢化率は30.8%(22年時点)で、ほぼ全国平均(29.0%)並みだが、認知症の有病率が高くなる80歳以上の高齢者が65歳以上人口の33%を占めている。

 つまり、高齢者が当事者になっている不動産取引では3割ぐらいの確率で認知症になっていないかどうかの注意が必要になる。契約時点で認知症を患っていたことがあとから判明すると契約自体が無効になってしまうからだ。

 そうしたトラブルで裁判になれば主治医の意見書が鍵を握るが、宅建業者が買主だった場合には不動産取引のプロとしての注意義務が十分に払われていたかどうかも判決に重要な影響を与えると言われている。

 そのため仲介業者としても成年後見制度や家族信託などに関する知識を普段から地域住民に情報提供しておくことが会社への信頼を得るには欠かせない努力となる。

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 IT・ICT技術の発達であらゆる産業が変革を遂げている。自動車はEVや自動運転へ、計算機は電子コンピュータから量子コンピュータへと。そうした中でサービス産業である不動産業は今後どう進化していくのだろうか。同じ地域産業のコンビニはいろいろなサービスを搭載し、今や地域にとってはなくてはならない存在にまで発展している。地域密着産業の先輩格で、店舗数でも勝っている地元不動産業はこれからどこへ向かうべきなのか。

 大手ディベロッパーやハウスメーカーが海外に進出したように、中小不動産会社も地元から脱出すべきなのだろうか。それとも日本全体がインバウンドでにぎわっているように、外部からの需要を地元に取り込むべきなのか。あるいはコンビニのように過当競争をしのぎながらも地元になくてはならない存在になるのか。何もしなければ、おそらく撤退に追い込まれることはほぼ確実だ。