総合

酒場遺産 ▶28 東京・人形町 大衆割烹 京家 艶のある街の活きのいい店

 人形町は艶のある街だ。大小無数の魅力的な飲食屋や酒場があり、酒飲みには歩くだけで心踊る街だ。かつて明暦3年(1657年)に大火があり、幕府の命で浅草日本堤に移転するまで、人形町は幕府公認の遊郭「吉原」があった。移転後もしばらくこの地は「旧吉原」と呼ばれたらしい。土地の歴史というものは不思議なもので、それから500年近く経った今でも過去の色香を残している。「酒場遺産」第2回目に「笹新」と角打ち「加島酒店」を紹介したが、今回は大衆割烹「京家」である。

 創業約50年の老舗だが、暖簾をくぐると感じるのは、歴史の重みより現在進行形の活きのよさだ。冬は藍色、夏は白の暖簾、隅々まで清掃が行き届いた気持ちの良い店だ。1階は厨房前のカウンターに5、6席、テーブル4人席が4つ、2階はテーブル席。筆者は、目の前のガラスケースに仕込んだ魚が並ぶカウンター席が好きだ。ホワイトボードに書かれた豊富なメニューが楽しく満足度の高い店である。魚はどれも新鮮で美味い。刺身盛り合わせ1600円、タタキと骨唐揚げの鰺セット980円、まぐろ中落ち550円、しめ鯖500円、天然ヒラメ差し、かんぱち、つぶ貝刺し、真蛸刺しいずれも780円などお薦めだ。

 珍しいのは鯨肉シリーズ。くじら刺身・ユッケ・ベーコン・竜田揚げ・ステーキを800~900円程度でいただける。自家製焼売も美味い。酒はビール、燗酒、焼酎、ウイスキー、酎ハイ類など一通り揃えているが、この店では日本酒が合うだろう。久保田(紅寿・千寿・百寿)、〆張鶴、朝日山、真澄、菊水、豪快、酔鯨など、無難だが美味い酒を正一合600~1000円程度。四合瓶でも頼めるのが嬉しい。(似内志朗)