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大言小語 不動産が映し出す現実

 新しい1年がスタートした。「辰年」の今年は、龍が上るがごとく景気の良い年を期待したい。それには足元で国民生活を苦しめているインフレ経済の対応として賃金が上昇することが欠かせない。大手企業のみならず、中小零細企業の従業員の所得が改善されなければ社会の分断は深まるだろう。そうなれば本格的な利上げは難しくなり、再びデフレ社会に戻り、低成長で国力を失い世界での日本の地位は下がり続けてしまう。最近の株式市場を見ると、成長への芽吹きに期待している。

 ▼不動産業界に目を転じれば大規模金融緩和を契機に過去10年間で地価と不動産の取引価格が急ピッチで上昇し、分譲マンションは今やバブル経済期の価格水準を上回る。一足先にデフレを脱却したがジレンマも残る。住宅を買うにしても一般サラリーマン層には高嶺の花となり、家を持ちたい人が持てない状況に疑問符が浮上する。

 ▼一方で、不動産の資産価格が上がることで恩恵を受けている人もいる。東日本大震災後やリーマン・ショック後の低迷期に実需物件や収益物件を購入した人の資産価値は相当に上がっている。評価額が購入時の価格より3割、4割高は珍しくなく、この10年間で資産を持てた者と持てなかった者の間に資産形成で優勝劣敗が浮き彫りとなった。デフレを脱却した不動産市場は格差社会の象徴となり、日本の社会経済のありように警告を発しているようにも見える。